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バスを降りても、そこにあるのは向日葵畑と、吹きさらしになっていたせいかボロボロになったパイプ椅子だけだった。前はバスを待つために使われていたんだろうけど、今は誰も使っていないのか、はたまたここに来る人が少ないのか。どちらかはわからないけど、パイプ椅子は錆びて横倒しになって淋しげに横たわっていた。
「……なんか、虚しいな」
誰もいない、広大な向日葵畑。みんな、ここに来ることはないんだろうか。こんなに綺麗なのに、心が動かされるのに。学校でもバスでもどこでも、みんながみんな、小さなスクリーンに釘付けになって、昔からある自然に目を向けようとしない。
つら、と頬を伝った汗が、水滴になって顎から落ちる。それは凸凹のコンクリートに落ちて、小さな黒いシミを作った。
やっぱり、暑いな。Tシャツの袖で汗を拭う。それでもどんどん流れ落ちてきて、どれだけ拭っても意味が無い。もういいや、諦めた。はあ、とため息がひとつ落ちた。
ひとりで哀しい、虚しい気持ちになって、俯いて……油断していたから気付けなかった。
すぐ近くに、人が立っていることに。
「──どうして?」
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