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寮付きの遊戯場の仕事に就いた。
男が出来た、捨てられた。又出来た、捨てられた。そして職場のいじめに耐えきれず寮を出た。
次はガールズバーの仕事に就いた。マンション付き。また男が出来る、でも遊ばれただけ。
そんな事を何度か繰り返した3年間…。
絶対泣くもんかと頑張って来たけど、身体も気持ちもボロボロになっていた。
その時、何故だか母の顔が浮かんだ。
「元気かな?」無意識に電話をかけていた。
「あっ!私、明日行くわ~!」
自分でもなんてぶっきら棒な言い方と思ったけれど、そうしないと久々に聞く母の声で泣きそうだったからわざとそうした。
「仕事だけど」
母の申し訳無さそうな声。
「うん」
懐かしい景色を見ながら電車に揺られ久しぶりに家に帰って来た。
「ただいま~」と誰もいない事はわかっていながら自然と出た言葉。台所に入るとおにぎりが置いてあった。
お吸い物にお湯を注ぎ、ラップを取っておにぎりを食べた。
「たらこ…」
噛みしめながら涙が出た。止まらなかった。
あんな酷い事を吐き捨てて事出て行った家。
でも…変わらず私を迎えてくれる母のおにぎり。
母はどういう気持ちでこのおにぎりをむすんでくれたんだろう。
出て行ってからの辛かった3年分まとめて私は大声を出して泣いた…。
「お母さん、ごめん!
たらこの味わかんないや」
鏡を見て泣き腫らした顔で苦笑いした。その顔を見て思った。
こんな顔見たら、母が心配するだろうな。
行こう!行って仕事を探し直そう。
もう一度きちんとやり直そう…。
私は置き手紙をして家を出た。
「お母さん、今度はお母さんの誕生日にたらこのおにぎり作りに来るね」
おわり
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