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恩返し
1、
6月前は、まだ彼らにとっては寒い時期。ある家の木の塀にカタツムリが縮こまって休んでいた。家の住人の男がそれを見つけて云った。
「おい、カタツムリ。俺はお前が大嫌いだ。そんなところでジッとしていると踏み潰してしまうぞ。すぐにそうしないのは俺からの情けだ。サッサとどこかへ行け!」
男がそう云うと、カタツムリは慌てて両手を出し、体の裾をヒョイとつまみ上げると、ニュっと2本の足を出して一目散に走り出した。それを見て男は腹を抱えて笑った。
2、
男はある日酒場で、隣家に住んでいる男にそのカタツムリの話をして、また笑った。すると隣家の男は、
「ああ、そう云えば、慌てて走るなんて滅多にしないことをして足をくじいてウチの窓辺で動けなくなっているカタツムリがいたんだ。きっとお前さんに急かされたそのせいだったんだな。
かわいそうだったから、「これでも少しは役に立つだろう」と爪楊枝を一本、そのカタツムリに、くれてやったんだ」
その話を聞くとカタツムリを追い払った男が驚いた顔をした。
「それで全て理解できた。
おまえつい先日、嫁をもらったよな。若い娘が夜中に訪ねて来て「旅の途中、足をくじいて困っております。どうぞ泊めてくださいませんか……」といって、それきりその娘が居ついて、そうして仲良くなったその娘と所帯を持つことになったんだ、と。そういうことだったのか……」
おわり
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