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伉儷の、始まり
―初夜Ⅰ―
ボルファルカルトル国行き前日。
今日はそういう、整えをすべき大事な日だったが、婚姻関係を結んだその日の晩でもあるこのとき、自室の扉を開けて招く夫デュッカ、デュッセネ・イエヤに、妻であるミナ・イエヤ・ハイデルが言い訳を考えたのは一瞬だった。
招かれるまま部屋に入り、誘われるまま寝台へと向かう。
明かりが消されると、窓布を引かれていない大きな窓から、紅月の光が忍び込むのが印象に残った。
デュッカの指が、うなじを這った。
そのまま振り返させられる。
ひとたび唇を重ねると、デュッカは止まらなかった。
確かめるように唇で触れて、微かな強弱を繰り返し、唇で数度、ミナの唇を挟み、それから。
舌先が。
ミナの顎の先に掛けた指が。
ゆっくりと、唇を開かせて。
侵入する、他者。
身を震わせて、ミナは閉じていた目を開けた。
間近にある、人の顔。
徐に視線を上げていくと、察したように、閉じられていたデュッカの目が、開かれた。
絡み合う、視線に。
なにが、あったのか。
抱き締める腕に力が入って、ゆっくりとなぞられていた唇の裏から、離れて、求められる、こちらの、反応。
ぎゅっと、デュッカの服を握り締めて。
恐る恐る、応えて、みる。
その舌先を絡め取って。
もっと。
ずっと。
強く求めながら、デュッカは口を大きく開けて。
同時に入る空気を、ミナは得た。
そのほんの少しの小休止のあと。
続いた柔らかな動きが、一旦止まって。
デュッカは、また確かめるように、今度は、ミナの頬に片手で触れて、頭の後ろへと、それを這わせ、少し顔を離して、唇からゆっくりと視線を上げて、ミナの目を見た。
吸い込まれそうな、その、不思議な色彩の目は、今、ここにある、紅月の明かりだけでは、はっきりと見分けることはできない。
ただ、熱を帯びる視線に。
恐れる心を、感じる。
デュッカはもう一度、手のひらをミナの頬に当てて、顔を伏せ、長い息を吐いた。
そうして、顔を上げ、いとしい者の唇の下を指で撫で、ふっと振り向いて、寝台の位置を確かめた。
そうしながら、ミナの背に回した腕に力を入れて、歩みを促す。
ミナは、柔らかく押されて、何気なく足を動かし、薄い掛け布が覆う寝台の前に、立った。
すっと、胸が、冷える。
無意識に、腹の上に手を置いて、息が止まりそうになるのを、堪えた。
「ミナ。今ではなくともいい。が。それほどには、俺は待たない」
静かな、声。
が。
横にいる、人から、発せられる。
ミナは、胸の熱が、寄せては返す波のように、極端な高低を繰り返すのを感じた。
震える息を吐く。
「今夜に、します」
そう言ってから。
大きく息を吸う。
どきどきと。
高鳴る胸の鼓動が、耳の奥で聞こえる。
震える息を吐いて、自分の身を見下ろし、取り敢えず、寝台に上がろうと決めた。
無言で寝台に近寄って、中央部の端に座ると、靴を脱ぎ、足を曲げて上げ、寝台に乗る。
敢えてデュッカの顔を見ずに、後ろ向きに移動して、寝台の中央に身を置くと、改めて、顔を上げた。
「あの。初めてで。何も分からないですけど。えと、ぼんやりした知識だけで…」
この先、どうすればいいのか、分からない。
何か、することがあるとすれば、自ら、服を脱ぐこと、だろうか。
思考が形を成す前に、すっとデュッカが上体を落として、片腕を寝台についた。
もう片方の手には、薄手の掛け布が1枚、畳まれたまま、風に運ばれて、載った。
デュッカは、それを寝台の上に置いて、靴を脱ぎながら寝台に乗った。
足を横向きに曲げるミナの横に、片足を立てて座り、ミナの姿を、下から上まで、じっくりと眺める。
ちらりと、部屋の掛け時計を確かめて、左の腕を伸ばし、ミナの頬を親指で撫でる。
困ったような、耐えるような表情で、視線を逸らす、相手。
頬に触れた指を、なぞるように下に這わせ、首の横を撫で下ろすと、彼女は、逃げるように反対側に視線を逸らせた。
喉元に到達した親指で、数回肌を撫で、人差し指で、肌の上を辿りながら、ミナの襯衣の、前を合わせる、一番上の釦の上まで動かしていく。
デュッカは、指を浮かせて、横を向くミナの顎の先を摘み、親指で撫でながら、ゆっくり、自分へと向かせた。
「今夜?」
「っ、は、はい…」
頬には赤みがあるけれど、微かに、時折、寒さを堪えるように、震えが走る。
その度に固くする、体。
「何も考えなくていい。今夜はな」
ゆっくりと顔を寄せて、唇を重ねた。
それからすぐ、手早く上着を脱ぎ捨てると、ミナの上着に手を掛けた。
丁寧に、けれど淀みなく、あっという間にすべての釦を外すと、脱げ、と言う。
口を挟む間を見付けられず、また、言うべき言葉も見付からず、ミナは無言で従った。
寝台の上に落とされた上着を、デュッカの風が拾って、寝台の枕の側に、ぽつんと置かれた椅子の上に載せた。
なんとなく、それを目で追う、ミナの顎の先に、少しだけ触れるものがあり、目を戻すと、デュッカの指が、首の根元から、下に、おろされて。
ミナの襯衣に、指を掛ける。
「あの」
「任せておけ」
見える部分だけ、釦を外すと、腰帯留めを外して、腰帯を引き抜き、床に落とす。
今日のミナの腰布は、1枚の布を、巻いたものだったので、緩んだそれを手前に引くと、容易に、その下の筒服が現れた。
デュッカは、ミナの体の下に残る腰布をそのままに、顔を上げ、相手の顔を見る。
気付いて、見返す目は、恐れと、どうすればよいのか、惑う色をしている。
手を伸ばすと、その行き先を追うように視線を落とし、頬に触れると、震えた。
指を顎下に這わせて、撫でながら身を寄せて、唇を重ねる。
乾いた唇を舐めて、舌先から中に進入し、僅かなりと得られる反応を探して、撫で回す。
時折、ミナが、デュッカの服を掴む手を、固くする。
身の震え。
閉じた瞼に入る力。
揺れる睫。
悩ましげに寄せられる眉。
柔らかな、色付く頬。
そこに現れる、官能への応答。
快さを、示して。
空気を求めて、吸い込む音の、震え。
瞬間、デュッカは、意識が飛んだと思った。
激しく、刺激を求めて、貪る。
布の上に、重いものが落ちる音に、少しだけ意識が引き戻されて、ミナの頭を、枕より下に落としたことを知った。
けれど唇を離すことはできずに、ほんの少し落ち着きを取り戻すまで味わうと、深い息をミナの首に注ぐ。
首の横の輪郭に唇で触れると、舌で触れ、その味を知り、自身の胸の奥の震えを、自覚した。
「ミナ。俺の者。放しは、しないから」
「デュッカ」
漏れ出た声は、思いがけずデュッカの体を刺激した。
耳の奥から、体を貫く、甘やかな声。
口を開けて、首の白い肌を唇で挟み、舌で撫でながら喉元に至ると、厚手の肌着の釦を外しながら、その下の肌に、唇で触れてゆく。
腹まで下りれば、腰から下にある筒服に阻まれ、身を起こし、静かに息を吐くと、何気なく目を上げた。
その視界に飛び込む、無防備な、肢体。
開かれた胸の中央に、手のひらを置いて、脇腹に向けて這わせていくと、次第に、露わになる、肌は。
紅月の薄い明かりの中に、浮かび上がる白い果実。
すっとミナの腕が動いて、胸の下に置かれた。
無意識の、抵抗。
その手を握って、上げると、寝台の上に戻して、デュッカは再び、右手をミナの胸の中央に置いた。
存在を確かめるように喉の下まで動かし、横に伸びる骨の上に、口付ける。
唇で肌を挟むようにしながら、左の手をミナの裸の腹に当て、少し横にずらして、ゆっくりと撫で上げる。
そうして。
肌をなぞり、両の手を、胸の膨らみに到達させた。
丁寧に、その中央を探り、手のひらの下で、優しく弄ぶ。
顔を上げて、何かを堪えるような表情を確かめると、右手をミナの肩まで移動させ、肌着と、その上の襯衣を開き、肌を撫でながら、自分だけに許された部分を眺める。
影を払う明かりを点けたくなるけれど、今は闇が多くても、仕方ない。
左手は、その下にある肌を弄びながら、デュッカは再び身を倒して、赤く色付いているのだろう誘引の果肉へと、舌を落とし、思う様舐る。
いくらか落ち着くと、柔らかな膨らみに何度か口付け、身を起こして、腰回りで、伸縮する布で固定された筒服を、脱がせに掛かる。
ミナの腰を持ち上げながら、両の手のひらをその体に滑らせ、腰布の内側、筒服の上にある襯衣の裾を上げて、筒服の内側へと、両の手を滑らせ。
下の肌着から伸びる、裸の足に触れた途端、ミナの口から悲鳴が上がった。
「やっ!……っ、、」
跳ね上がる体が、筒服をその場に置いて、逃げる。
けれど、この筒服、両の足首でも固定されているので、中途半端に脱げた格好になる。
自分でも、思いもしない行動だったのだろう。
荒い息をしながら、ミナは、立てた膝の先にある脱げ掛けた服を見て、デュッカを見た。
「あ…」
荒れた息を繰り返しながら、発すべき言葉も探せない様子のミナは、自分がどんなに淫猥な姿態を曝しているのか、気付いていないらしい。
手を伸ばして、裸の太腿の裏に触れると、やだっ!と、かわいらしい悲鳴を上げて、後退った。
「少し我慢しろ」
そう言って、露わになった腓に触れると、また悲鳴を上げて逃げる。
「じっ、じっ、じっ、自分で、ぬ、脱ぎます…」
「だめだ」
打ち返すように答えて、細い足首をしっかりと捕まえる。
「やっ!やっ!やだっ!放してっ!放してえっ!」
思いの外強い力で抵抗するが、鍛えられた腕に敵う訳もない。
デュッカは心躍らせながら、踵から足裏、足指の先へと、いやらしく指を動かして、靴下ごと、筒服を取り払う。
甘美な悲鳴が投げ付けられて、嬉しさが溢れる。
一度、自由にしてやると、枕を後ろに、寝台の端まで逃げて、自分で残る右足の筒服を取り去ろうとする。
そんなことをされては、せっかく見付けた楽しみがなくなってしまうので、すぐさま距離を詰めて、腓部分から手を滑らせ、ずれた靴下ごと、筒服を取り除き、床に落とした。
荒れた息を繰り返すミナは、目の端に涙があり、デュッカの胸の奥を強く掴んだ。
「まだ、始まったばかりなんだが?」
「あ、は、あ、ま、待って、少し、だけ、待って」
「いいが…」
裸の足先の上に、手を乗せて、デュッカは、舐めるようにその輪郭を眺め上げた。
「このまま、ここで続けるのか?」
「え、えと…」
「こんな寝台の端では、まあ、俺はそれでもいいが、お前には負担かもしれないからな」
「あ、は…、………」
ミナは、自分たちの乗る寝台を確かめて、どうやら、中央に移動するべきらしいと、気付いた。
でも。
動けない。
「は、あ、あ、あの」
「ん?」
「は、あ、つ、連れて、いって、くださ…、う、うごけな、けど。い、今しか、ない、から、たぶん」
荒い息が、止まらなくて。
意識を手放しそうだけれど。
今を逃したら、二度とこんなこと、思い切れはしない。
「ミナ」
デュッカは、右手を差し出した。
「体を、こちらに倒すぐらいは、できるか?」
ミナは、縮こまっていた体勢から、少し体を開いて、肌も露わな衣服に構わず、デュッカの胸に縋り付いた。
そのまま、デュッカの襯衣を、力の限り握り締める。
その、懸命な、仕草が。
どれほど、自分を信頼しているか。
どれほど、この先のことを、恐れているか。
教えた。
デュッカは、色を求めることを中断して、優しくミナの背を撫でた。
彼女は、時折、身を固くしたけれど、次第に、力を抜いて、上体を預ける。
呼吸が静かになる頃、ゆっくり体を曲げて、ミナの耳に唇で触れ、繋がる顎の線から、首の下へと、這わせていく。
自身の上体が、曲げられる限界に至ると、顔を上げ、闇の多いなか、白く浮かぶ顔を見つめて、腕を首に回せ、と言った。
ミナは、そっと腰を上げて、両腕を肩の向こうに回し、ぎゅっと締め付けた。
デュッカは、右の腕をミナの膝裏に回して、しっかりと固定すると、寝台の中央まで、膝立ちで移動し、腕を緩めるように言った。
上体を起こし、身を離すミナの背に手を添えて、そっと寝台に寝かせ、足を下ろす。
ミナは、曲げた足を伸ばそうとしたが、デュッカは、その立てられた膝頭に片手を当てて、そのまま、と言った。
問うように見るミナを見て、ふっと微笑みが浮かぶ。
自分の腰帯留めを手早く外し、引き抜いた腰帯ごと床に落とすと、少しだけ思案して、やはり手早く襯衣の釦を外し、床へと脱ぎ捨てる。
袖のない、頭を通して脱ぎ着する、伸縮しやすい肌着を、裾から捲り上げて脱ぎ捨て、一旦、寝台から下りると、腰布を下に落とし、再び寝台に上がって、ミナの足先に片膝を立てて腰を下ろした。
そっと、揃えられた足先の上面に片手を置き、不安そうなミナの顔を見る。
気持ちとしては、この白い足を、反応を確かめながら丁寧に撫で上げていきたいけれど、今夜は時間がない。
明日の出発を思えば、あまり遅くならないうちに、睡眠を取らせなければならないのだ。
デュッカは腰を上げて、ミナの膝頭に、片手を乗せた。
「自分で足を開くか。それとも、俺がしてもいいか?」
言うと、ミナは慌てて上体を起こし、立てていた膝を横に寝かせようとした。
もちろん、デュッカは、両の膝頭を強く押さえて、微動もさせない。
「あっ…の……」
「先ほどの様子では、耐えられそうにない。どうする?」
ミナは、かなり時間をかけて心を決め、恐る恐る、両足を離した。
あまり広くはない、その間に、強引に体を割り込ませて、唇を求め、勢いのまま、ミナの頭を寝台に下ろした。
執拗に舌を絡めながら、ミナの肌着と襯衣をまとめて肩から外し、少し考えて、完全に脱がせた。
下穿き1枚にしてしまうと、ゆっくりとそのなかに侵入して、最も重要な入口に、触れる。
びくりと。
全身が跳ね、息を呑む。
ゆっくりと、唇と共に、指も離していき、間を置かず、下穿きのなかで、再び触れた。
「……っ!!」
声も出せず、息を呑む。
白い肌のなか、上を向く可愛らしい突起に唇を落とし、刺激を与える。
「ふっ……っ!」
どちらかに対する反応が息となり、慎重に接触を繰り返す指に、体液が零れ落ちた。
滑らかになる指触りのまま、割れ目を、探り、開く。
「……ふ」
体を固くし、耐える、姿が、いとしさを深めもし、また、扇情して。
自分の。
一部を。
ゆっくりと、割り入れる。
息を呑んで。
腕を突っ張り、デュッカの身を、力の限り押すけれど。
立てられた指先は、どこか求めてもいるようで。
背けられた顔をそのままに、耳に唇を寄せて、名を呟く。
「少し、辛抱、しろ」
ぴたりと。
嵌められた、部分を意識して、腰を揺らした。
声にならない息が漏れ、立てられた指先に力が増し、逃れるように動かす腰が、こちらの感覚を刺激する。
もう、考え、など、差し挟む余裕もなく。
激しい動きで快楽を求め、また、相手の反応を確かめて、喜びを噛み締める。
こんな、淫らな、叫びを、聞く度に、熱い部分が膨張し、もっと、もっと、欲しくなる。
気付くと、幾度めかの恍惚の果てに、頽れる相手がいて、確かめると、反応はするけれど、体力の限界なのだと、知れた。
まだ、離れたく、放したく、なくて、体を繋げたまま、動きを止める。
どくり、どくりと。
脈打つ、度に、彼女の柔らかな唇から漏れる息が、乱れるけれど、まだ、だめだ。
自由には、させない。
用意した掛け布を背に掛けて、デュッカは、ミナの上に自身の重みを落とし、しばらく、休んだ。
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