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朝早くに孝さんは出かけていった。
川原くんと会うのにどんな服装がいいのか、クローゼットを覗いてもグレーや紺の服しかない。
でも、これしか自分に似合うモノがないのだから、グレーのサマーニットに紺のくるぶし丈のスカートを合わせ黒のパンプスを履いて家をでた。
待ち合わせ場所は昨日のファミレス、川原くんはベージュのチノパンに白地に紺のボーダーシャツに紺の半袖の麻のシャツを爽やかに着こなして、その隣に立つ自分はとても地味だ。
「今日は一日俺の彼女ね」
そう言って最初はショップに行き襟元にレースがあしらわれたパステルブルーのワンピースに白の総レースのボレロ、かかとにリボンのついたベージュの5cmヒールの靴をプレゼントしてくれた。
川原くんは後ろに一つにまとめていた私の髪をほどくと
「うん、こっちのほうがいいよ」
姿見に映った自分は明るくはつらつとしていた。
自分でみても
似合っていた
「すごく綺麗だよ」
うれしい・・・
孝さんは絶対に言わない言葉だ。
「今日は一日恋人だから、実って呼んで」
実の車で水族館へ行き海沿いの公園を二人で歩いた。夢のような時間は過ぎていく、夕日が落ちていくにつれて会話も減っていった。
何を言われるのかビクビクすることがなく、こんなに笑ったのは何年ぶりだろう。
もう少し
「ごめん、どうしても欲しい」
実の言葉でどこに向かっているのか気付く
どうしよう
でも一緒にいたい
「きみは濡れない体質だからわたしぐらいしか夜の相手はできないよ」
孝さんの言葉が頭に響く
「私ね、濡れない体質なんだって・・・・それでもいい?」
実は優しく微笑みながら、「いいよ、ちゃんと待つから」
“待つ”の意味が分らなかった
部屋に入ってすぐに口づけられた、初めての感情と感覚に襲われる
「濡れないなんて嘘だったね、キスだけこんなになってるよ」
初めてだった
今までの孝さんの行為はなんだったんだろう
身体を重ねるのがこんなに気持ちが良くて満たされるなんて初めて知った
たった一日なのに実といると自然な自分でいられる気がする。
「婚約者って人に洗脳されてない?」実がぼそりと呟く。
孝さんと結婚していいのかな・・・
「婚約者と結婚していいの?」
「もう、帰らないと」
「そうだね」
マンションに着くまでお互い無言だった。
車から降りるときにキスをされて
心が跳ねた
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