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「あなたが私を破壊してくれるの?」  預言者の占い通りに現れた、漆黒の羽のカラス。  鳥は喋る。 「粉々に?お安い御用さ。でも何だってそう死を急ぐ?見たところお前さんはまだ随分お若そうだが」  鳥の声に一瞬驚きつつも、沈んだ少女の顔はすぐにまた強張っていく。 「私はこの国、ヨージョークの姫、ルカリア。  これまで何不自由なく生きてきたわ。  政略結婚が決まった時だけは悩んだけれど……会ってみれば、夫になる隣国の王子サーディックは『当たり』で、まあまあ素敵な人だった。たくさん浮気はしているようだけど、ムカつくことは表面に出さない人だし、穏やかに笑う人だったから……。  心から愛している人ではないけど、父の熱心な推薦もあって、決めたの……。  結婚式は十日後の予定だった。  だった……そう。そうなの。きっともう式はないわ。だってもう、全てがおしまいなの。  一週間前、民衆のクーデターが起きて、父は城から引きずり出され、四肢を裂かれてしまった。今、正門と裏門を閉じて、かろうじて民の侵攻を防いでいるけれど、いつどこから襲われるか分からないのよ。  食べ物も持ってあと数週間。国内にいたはずの婚約者のサーディックとも三日前から連絡が取れない。彼は世渡り上手だから、きっともうこの国を、私を見限って帰国したんだわ。  私は彼にすがって生きることはできない……」  それで少女は昨日、城内に残っていた預言者に尋ねた。  自分はこれからどうすべきなのか。  いかにしてこの危機を打開すべきなのか。  けれど彼は首を振って言った。 「いいえ、姫様。もう姫様は崖っぷちではなく、崖の下なのです。道は既に失われているのです」  はっきりとした断言に少女はうろたえた。  老いた彼は続けた。 「けれど、美しく純潔なあなたが、高慢な父君と同罪にされることはない。どうでしょう。あなたの肉体だけでも守られては」 「肉体だけでも……?」 「水晶の中に、あなたを欲しがる黒い影が見えます。清い者ではありませんが、民衆側ではありません。崖の下にいた獣です……交渉を願い出ています。どうしますか?彼はあなたをもらい受けたいそうです。ああ、しかし、いけない……これは……これは、破壊をもたらす影だ!」 「破壊?」  預言者は声を震わせ、暗い瞳を持ち上げた。  瞳には明らかな怯えがある。 「そうです……これは地獄に潜むもの……会えば精神を食われるでしょう」 「面白いわ。これ以上にこの精神が崩壊するなんてことあるかしら」 b0ecd713-4c5f-4087-b325-a7d93403b932  
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