【2】

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【2】

「なるほどね。それで面会を許してもらえたってことか」  黒いカラスは笑うように羽を震わせた。   「そうよ。そう……心を壊してもらえれば、死の恐怖からだって逃れられるでしょう。肉体がその後どうなろうと……意識がなければ、痛みも感じないもの」 「覚悟があるんならいいさ。ご主人様もお喜びになる。すぐそこで待ってらっしゃるんだ」 「え?どういうこと?」 「細かいことは気にしなさんな。さあ、どうする?破壊を受け入れるかどうか……時はそう悠長には待たないぜ」  カラスの言うご主人様とは何者なのだろう?  少女は正直、不安を隠せなかった。  けれど、もう後には引けない。  月のない深い闇夜。  鳥と話すバルコニーの二十メートル下では、民衆の持つ炎の群れが揺れている。彼らは夜になっても城の包囲を続けている。  ここは落葉高木の陰、あちらからは見えない。  ドゴオオン……  その時、鈍い轟音と、召使の叫び声が響いた。 「姫様!お逃げ下さい!民衆が…民が……!ああっ!」  召使の声はそこで途絶えた。  勢いよく階段を駆け上がってくる複数の革靴の足音。  恨みに燃えた荒い息。錆びた金属が擦れ合う、耳障りな不揃いの音。  少女からすれば、民衆こそが魔物だった。    私は彼らに何もしていない。  私は、彼らのおかげで、彼らの税金で働きもせず裕福に暮らしてこれた。  でも、それは当たり前ではなかったのか。  王であるから、姫であるから、それは特権で、選ばれた者に与えらえた当たり前の幸福ではなかったのか。  父が殺されて思うのは、父も同じ人間だったということ。  簡単に死んでしまう、脆い身体の持ち主だったということ。  特別なんかじゃなかった。  はじけ飛ぶ『階級』、あるはずだった『身分の差』は掻き消えて、もうどこからも姫を守ってはくれない。  ごめんなさいと謝ったところで、許してもらえるわけがない。  擁護してくれる人などいないだろう。  でも、八つ裂きだけは、嫌だ。 「……いいわ。心を破壊してくれたら、身体なんてただの器だもの」  目を閉じる。  カラスのくちばしが大きく開く。  それは予想よりも遥かに大きな穴、大きな渦。  少女は見る間にその闇に飲まれていく。  パツン、と何か切れたような音。  気づくと、ふわふわの白い世界。  ああ、綿菓子のようだ。素敵。もうこれからは何に恐れることもないのね。  けれど、染まっていく。  少女が触れたところから、『白』は『黒』に変わっていく。  まるで汚染源は自分であるかのようだ。  おびただしい黒い虫に這われ、覆われていくような不快感。  発狂しそうだ………!  黒く染まっていく世界でもがく。 「破壊に苦しみがないとは言っていない……」  低い声が聴こえる。 『白』を求めるほどに、自分が闇を濃くしていく。 92ab5518-04b8-42a8-8cec-378f62a54b03  
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