【第七章】 第五話 

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【第七章】 第五話 

「ちっ……。賭けは貴様の勝ちか」  近付く御門を苦々しげに()めつけた尸獣は決着の言葉を吐き捨てた。それを確認した御門は悪びれもせず含みのある笑みを見せる。 「そりゃど〜も。ってことは、アンタは大人しく引いてくれるんだな?」 「諸々痛手だが仕方あるまい。この屈辱……忘れんぞ」 「痛手って金の話? それともプライドの話?」 「両方だ」  と……少し考える素振りを見せた御門は一つ提案を持ち掛けた。 「プライドの方はどうしようもないけどよ……金の方は埋め合わせできるかもな」 「何……?」 「ま、こんなところで立ち話も何だからな。移動しようぜ」  御門はビルの看板の陰に隠していたバイクを取りに行くと『尸獣』の前まで移動し停車した。 「ホレ。後ろに乗れよ」  満面の笑みで後部シートを叩く御門。流石に無警戒すぎると感じた尸獣は溜息を吐き頭を軽く振っている。 「背後から仕留めるかもしれんぞ?」 「そりゃあ、無ぇよ。アンタら道士にとっちゃ信奉する神仙への近いは絶対……だろ?」 「……」 「それより早くした方が良いぜ。お巡りさんだけじゃなくもっとヤバい組織が出て来るからな」 「ちっ……。仕方無い」  尸獣は渋々ながら御門に従うことにした。どのみち誓いを破る訳にも行かない。自らの危機になった場合は別だが御門から敵意を感じない以上、大人しく従うのが却って安全でもある。  何より……尸獣は御門という男の力に興味が湧いた。  移動の間、尸獣は御門の情報をどう引き出すかの目論見を立てる。日本という国で自分をも手玉に取る術者……闇社会にも精通するならば引き出せる情報は多いに越したことはない。  そんな尸獣の思惑だったのだが……。 「おかえりなさいませ、御主人様〜」  御門達が辿り着いたのは……メイド喫茶だった。 「ミカちゃ〜ん、ただいま〜」 「あ〜! 御門さんだ〜! もう、全然来てくれないんだもん」 「ゴメンね〜。しばらく忙しくってさ〜。でも、久々にここのオムライス食いたくなったから来ちゃった。イェ〜イ!」 「イェ〜イ!」  メイド店員達とハイタッチを交わす姿に尸獣は眉間に手を当て(うつむ)いている。 「今日はちょ〜っち友人(ダチ)と話があってさ。奥の部屋使わせて貰うけど……空いてる?」 「空いてるよ? 店長〜! 御門さん、奥の部屋使いたいって〜!」  このやり取りにやや憮然としている尸獣は不満を漏らす。 「俺は友人じゃないぞ」 「良いんだって、細かいことは。建て前、建て前」 「…………」  と、その間に店の奥から現れたのはウェイター姿の30代程の女性。ショートカットの黒髪だがやや前髪が長く片目を隠している。  店長と呼ばれた女性は電子タバコを吸いながら御門に近付いて来た。 「珍しいな、御門。お前が他人連れてくるなんて」 「まぁね。事情は分かるだろ、樋沼(ひぬま)」っち?」 「変な語尾付けすんな。……。つまりソッチ筋の人間なんだな? なら、好きに使いな。料理運んだら人を近付かせないようにしとくよ」 「サンキュー、樋沼っち。愛してるぜ〜!」 「ハイハイ、私も愛してるよ」  至極面倒そうな顔で手を振りつつ、店長・樋沼は奥の部屋へと去っていった。      
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