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シズカさんとオパール
夕方。
次々にお客様がやってくるのを、玄関でおばあちゃんと出迎えた。
一族の顔ぶれは大体が顔見知りだ。
美実の通う学校の先生も何人かいた。おばあちゃん自身引退するまで学校の先生だったから、一族からミチルさん、というより先生と呼ばれる方が多かった。心の力の強い生徒をまとめるには学校の卒業生か魔女の血筋の教師が一番適役と思われているそうだ。保護者からの評判も良い。
何故学校が高等部までかというと、高等部を卒業するまでには自分の心の力の強さと巧く折り合いがつけられるようになるし、そうなったら普通の社会でもやっていけるからだ。
むしろ、心の力の強い生徒は、社会に出でから自然にリーダーシップを発揮するようになり、勤め先ではぐんぐん頭角を現して出世して、重い役職でバリバリ仕事をこなす人材になっていることが多い。
あの学校出身という肩書きは、入社試験のとき知る人ぞ知る評判の良い肩書きとして喜ばれる。
使い魔たちもやってきた。ダンゴは一匹、一匹挨拶をして使い魔の控え室にあてがわれた部屋に案内していた。
黒猫の姿をした使い魔の中に、黒蛇、カラスの姿の使い魔もいる。美実は誰がダンゴのお母さんだろう?と観察していたが、よく解らなかった。
お客は皆美味しそうな匂いのする料理を一品持ってきて、客間のテーブルは華やかになった。
皆かわりばんこに美実をハグしておめでとう!や、ようこそ一族へ!を言ってくれる。社交辞令とも違う心のこもった言葉で。美実は嬉しくなった。
髪の毛を虹色に染めた年齢不詳な女の人が優しい笑顔でハグしてきた。ふわん、と花のような良い香りがする。その女の人が、柔らかい声で歓迎の言葉を口にしたとき、おばあちゃんがその女の人に声をかけた。
「シズカ(静)さん、きてくれてありがとう」
一族全員が振り向いてシズカさんと丁寧に労うようにハグを交わしあった。
シズカさんは大きなバスケットから、ケーキ1ホールと作り立てのミートパイを取り出した。すると、キラキラ黒真珠のような綺麗な色の大きな蛇が一番底から首をもたげて赤い目で美実を見つめた。
「オヤオヤこの子かえ?今度チャネルが開通したのは」
「そうだよ、オパール、この子の使い魔はお前の孫になるそうだよ」
「どこに居るのかえ?その孫とは」
黒真珠色の蛇は音もなくバスケットから身を乗り出して、辺りを見回した。ダンゴが、バスケットの真下に来て、オパールを見上げる。
シズカさんはバスケットを床に置いた。オパールはダンゴの方に身を乗り出して匂いを嗅ぐ。
「ホウホウ、いるねえ。めでたや」
オパールがそういうと、ダンゴが美実にウインクをした。
「あの人が、一族の長老?」
美実はこっそりおばあちゃんに聞いた。
「そうだよ」
おばあちゃんが頷く。美実は長老というからすごく年を取った人だと思っていたが、そんなに老いて見えない若々しい容姿に驚いた。シズカさんはバスケットからオパールを出すと、背筋をまっすぐ伸ばして立ち上がり、改めて美実をハグして、柔らかい笑顔で
「チャネル開通おめでとう。ようこそ一族へ」
と、優しく言った。
シズカさんがそう言うと、心の芯から暖かくなるような気がした。この家にやって来て、おばあちゃんに魔女としての資質をまるごと受け入れられた時のように。
「一族と会えて私も嬉しいです」
思わず、嬉しくてそう答えると、シズカさんはニッコリ美実に笑いかけた。
「ミチルの血族にまたこうして会えるなんて、喜ばしいよ、ミミちゃんは橋渡しをするようだね、私たちと普通の人たちとの」
シズカさんの目に引き寄せられるように、美実はシズカさんの穏やかな眼差しを覗き込み、心の力の強い若い人と普通の人の間に立って笑っている少し大人に成長した自分をはっきり視た。
え、これなんだろう?美実が驚いていると、シズカさんは呟くように言った。
「自らの定めを探す者、先の定めを見いださん」
「???」
「今視たのは、あなたが成長してからの可能性よ」
「シズカさんも視えたの?」
シズカさんは頷くと、美実の頭を撫でた。
「未だずっと先だよ、目指すのがそこだというだけ。ゆっくり成長しなさいな、その間にあなたの基礎がしっかりしてくるからね」
「はい」
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