美実(ミミ)のチャネル開通

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美実(ミミ)のチャネル開通

美実の小学校は一見するとどこにでもある学校に見える。でも車イスで来る子がいたり、ダウン症の子がいたり、サングラスをかけてる目の見えない子、髪の毛を深紅に染めて魔除けにしている耳の聞こえない子、ほかの学校では多動と決めつけられたが実は霊感が強くて困っていた子、見た目は普通の子、生徒は様々だ。学校のある地域では養護学校と勘違いされている。でも、本当は心の力が強い子供たちを集めた幼小中高一貫の学校なのだ。 ミミはこの学校の初等部の五年生だ。 中等部の上級生になると、魔女の血筋の生徒は使い魔申請をして使い魔との意志疎通が確認されたら使い魔を学校につれてきてもいいことになっている。使い魔たちは主(あるじ)に呼ばれるまで決まりを守って学校内を自由行動だ。主とちゃんと意志疎通ができないと好き勝手なところで粗相をするので厳格に審査される。 魔女の血筋の生徒は使い魔がいることで心の力が安定するので、色々揺れやすい年齢の中等部の魔女の血筋の生徒には学校をあげてなるべく使い魔を連れてくることを推奨している。 使い魔の定番は猫の姿をしているが、たまに蛇、カラスもいる。共通しているのが全体が黒くて、眼が紅い事だ。 魔女の血筋の生徒自体、学校の生徒数にたいして少数なので、そんなに目立つ存在ではない。使い魔申請が通って使い魔を連れてきて初めて、ああ、そうだったのか、と周りが納得するくらいだ。 この学校は心の力の強い子供たちが集っている。 心の力が漏れ出て、植物が異常繁茂することや、あちこち校内に霊道が開くことや、物が突然壊れる、宙を浮くなど日常茶飯事だから。 美実は初等部五年生だが、学校に行ったことがないので普通の学課は補助授業を受けている。 でも「道徳の時間」は違う。 この学校の道徳のカリキュラムでは、心の力を制御する方法、自分の心のバランスを良好に保つこと、自分の心に正直になること、周りの人と調和を保つ方法、瞑想のしかた、自分を一番に大切にする方法を教わる。美実は、おばあちゃんからそのへんのことをケアされているので、同じ歳の子供たちと同等に学べた。 心の力が強い子の中には、両親に疎まれていたケースが多く、心に傷をもつ子もいて、このカリキュラムは重んじられていた。 「ミミちゃんおはよ」 教室にはいると、仲良しの友達が声をかけてきた。リンコちゃんはいつもサングラスをかけている。濃い色のサングラスだ。それがないと世界がエネルギーで光って眩しくてしょうがないんだそうだ。 「おはよ!リンコちゃん!」 と答えながら、友達と挨拶するって何て嬉しいんだろう、と美実は思う。1ヶ月前まで、友達なんていなかった。母親と父親と三人だけの世界しか知らなかった。 今ではたくさん友達がいる。夢みたいだ。 美実はこの学校でいとこやまたいとことも出会った。親戚がいるなんて全然知らなかった。母親も父親も、美実の心の力を隠すので手一杯でそんな話しはしたことがなかった。きょうだいも居ない。歳の近い子と接触したのは学校に通い始めてからだ。 皆普通の人間の暮らしに興味津々だったし、美実も魔女の血筋の自分の一族に興味津々だったしですぐ打ち解けた。 中でも三つ年上の中等部の又従姉妹と仲良しになった。彩芽お姉ちゃん、と美実が呼んでいるその子は、使い魔申請が通ったばかりで黒猫の使い魔と一緒に登校している。とと吉という名前だ。何故か、今日は美実の教室にいて、美実の机の上に寝転んでコロンコロン体をくねらせていた。 「あれ?とと吉?何してるの?彩芽お姉ちゃんは?」 思わず声をかけたら、何ととと吉の返事が伝わってきた。 「フン、今アヤメはクラスメイトの雄に夢中さ。あんなひょっ子どこがいいんだか。わーい、ミミの弁当、焼いた鯖入ってるな、少し分けてもーらおうっと」 「………?!」 美実は驚いて目をぱちくりした。まさか返事が聞こえるなんて。 もう一度、聞いてみた。 「彩芽お姉ちゃん、ボーイフレンドがいるの?」 今度はとと吉が目を丸くして値踏みするように美実を見た。 「おいらの言葉解るのか?」 「うん。そうみたい」 「ヘエー。お前チャネルが開通したんだな。早く帰ってお前の家族に報告しなよ」 「え、学校に来たばかりなのに?」 「ミミの一大事だろ。学校来てる場合じゃないぞ。全開きしかけたときが大事なんだ 」 リンコちゃんが面白そうに覗き込んできた。この子は魔女の血筋ではないけれど、この学校に幼等部からいるので魔女の血筋のことに詳しい。 「ミミちゃんチャネルが開通したの?」 「リンコちゃんはとと吉の言うこと解るの?」 「うん、まだたまに意味のある事が聞こえてくるだけで会話は成り立たないけど」 「チャネルが開通する」とは、話したい対象に瞬時に自然にに心の力の周波数を合わせることが出きるようになるということで、魔女の血筋独特の能力だ。普通は心の力が強くても、修練しないと身に付かない。一方的に植物やクリスタルの呟きが聞こえるのと訳が違って、それらと会話して意志疎通ができるようになることだ。 魔女見習いがチャネルが開通することは初潮か始まるのと同じくらい、親族から一人前になったと祝われる出来事だった。 美実はリンコちゃんに聞いた。 「私、家に帰っておばあちゃんに報告した方がいいのかな」 「先生には私が話しとくよ、おばあちゃんに報告しに帰りなよ。とと吉が言うみたいに学校に来てる場合じゃないよ!おめでとう!よかったねえ!」 美実はなんだか照れ臭いような、こんなにあっさりチャネルが開通して拍子抜けのような微妙な気持ちだった。 もしかしたら、彩芽お姉ちゃんと仲良しだから使い魔のとと吉と話せるんじゃないかと思ったりしたけれど、帰り支度を始めた。それから思い付いて、弁当箱を開いて、中から鯖の塩焼きを取り出してとと吉の前に置いた。 「ハイ、とと吉、これお祝い振る舞い。あんまりしょっぱいもの食べちゃだめだよ」 「やったあ!」 とと吉が勢いよくガブガブと鯖に食いつく。彩芽お姉ちゃんか前にとと吉が人の食べるものをぬすみ食いするんだ、ちゃんとだめだよって話し合わなきゃとこぼしていたのを思い出して美実はプッと吹き出す。こんなに喜ばれるとまたあげたくなっちゃう。 荷物をまとめると、リンコちゃんに手を振って美実は大急ぎで学校を飛び出した。
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