チャネル開いたら雷ドーンとか、合図がほしいな

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チャネル開いたら雷ドーンとか、合図がほしいな

ほかの生徒たちが登校するなか、家に向かって駆けていくのはドキドキした。 それに、本当に自分のチャネルが開いたのかどうかも、よく解らない。 空から光が差してくるとか、稲妻がドーンとか、なにかはっきり解る合図あってもいいよね、と思ったけれど、道すがら電線にとまった雀たちのかしましい話し声を聞いて(どこで美味しいバッタが捕まえられるかぺちゃくちゃ話していた)ああ、本当にチャネルが開いたんだ、という自分の実感が全て。 すごく不思議な感じだ。本当に自分がチャネルが開通したと確信していいのか、あれはまぐれだったのじゃないのか?という不安が、学校から離れるにつれ強くなった。美実はリンコちゃんと、とと吉にからかわれたんじゃないのかとも思った。 おばあちゃんに、自分が早とちりな報告をしたらがっかりするだろうか。 それが一番恐かった。 自然に家に近づく足が遅くなった。家の庭の前まで来たところで、美実はしょんぼり花盛りのバラの茂みに隠れるように足を止めた。 気が重いなあ。おばあちゃん出てこないかな、私を発見してくれないかな、そうしたらテヘッと笑って事の顛末を話すのに… 美実がこのまま学校へ帰ろうかと考えていると、バラが呟くのが聞こえた。 「ミミは何を迷っているんだろうね?」 「はあ、根がかわいた。お水かほしいな」 「油虫がついてるんだけどなーとってくれないかな」 「えっどこについているの?」 思わず、聞き返す、おばあちゃんがこのバラの茂みを大事に手入れしているのを知っていたから。おばあちゃんに限って抜かりはないはず。魔女だもん。だよね? バラの茂みは、驚いたように話しかけてきた。バラの芳香が強くなる。 「ミミはわたしたちの言葉が解るの?」 「う、うん。…本当はよく解らないの」 「よく解らないってどうして?」 「こうして話してるじゃなあい?」 「これ、本当のことかなって。私が聞こえると思って勘違いしてるんじゃないかなって」 バラは綺麗な笑い声をあげた。芳香が一層強くなる。 「なんで自分が話せるのに信じないの?魔女の血筋なのに変なこと言うね」 「そんなことよりお水がほしいな」 「虫もとって。ムズムズするよう」 美実は物置に行っておばあちゃん特製天然素材の油虫除けスプレーと、ジョウロになみなみと水を汲んでバラの茂みに戻った。バラにどの辺に油虫がいるのか聞いてスプレーする。本当に葉っぱの裏に油虫が沢山ついていた。 それから水の精霊に祈りをして水を神聖にしてからジョウロでたっぷり水をあげた。 バラの茂みは気持ち良さそうにため息をついた。 「ありがとう。すごくいい気持ち」 「根に染みるー」 「早く知らせておいでよ、きっと待ってるよ」 「う、うん」 美実がバラの茂みからから離れて、家の玄関に向かうと同時に、玄関のドアが開いて、おばあちゃんが姿を現した。 美実を見つけると、にっこり笑った。 「学校の先生から、連絡をもらったんだよ、今帰るところだって。良いことがあったんでしょう?」 「うん…」 美実は、うつむいてもじもじ爪先で地面をこすった。おばあちゃんは美実のそばまで来ると、屈んで美実と目線を合わせ、じっと美実が話すのを穏やかな顔で待っている。 美実は思いきって今朝学校でとと吉との間にあったことを話した。ときどき、おばあちゃんは「うん、うん」と励ますように相づちをうちながら、美実の自信がなくて要領を得ない話を最後まで聞いてくれた。 「それでね、家に帰るとき、電線にいっぱいとまってた雀の話が聞こえてきて…あ、ほんとうにチャネル開通したんだなあって思ったんだけど…これ、ほんとかなあ?おばあちゃん?」 おばあちゃんは美実の問いかけには直接答えず、でもニコニコ笑いながら、家に入ろうと美実の手をとった。パウンドケーキを焼いたから、お茶にしようよ、と。そして、美実の周りをクンクン嗅いでバラと話したの?とだけ聞いた。 「なんで解るの?」 「バラのいい香りがミミからするから」 「うん、話したのかな?本当にバラの根本もカラカラにかわいていたし、葉っぱの裏に油虫もいたの」 「あら、抜かったねえ」 おばあちゃんはハハハと笑った。 「私だって完璧じゃないよ、ミミ」 美実の頭を優しく撫でて、おばあちゃんはニコニコ笑った。 「完璧であることは、そんなに大切じゃないの。ミミか何をして、どう感じたかが大事なんだよ。なんでも感じていいの」 「道徳の時間に、先生もおんなじこと言ってた」 「いまはどう?何を感じる?」 「………本当かなあって」 玄関のドアを開けながら、おばあちゃんはまたハハハと笑った。 玄関の中にはいると、美実は知らない女の人が立っているのに気がついた。誰だろう?大人なのは解るけれど、何歳なのかは全然解らない。おばあちゃんと同じ歳にも、もっとずっと若いようにも見える。 美実と目が合うと、ニッと笑かけてきた。親しげに。 「こんにちは」 美実が挨拶すると、ククッと面白そうに笑った。おはあちゃんも笑った。何がおかしいんだろう、美実はムッとした。 「丁度いいときに来たねミミ。わたしたち二人だけでお茶をするのに、今日はなんだかもう一人ぶん用意した方がいいと思ったんだ」 女の人はそう言うと、ミミがおばあちゃんと繋いでいるのと反対の手をスッととった。 「初めてチャネルが全開きした感想は?」 この女の人馴れ馴れしいなと美実は思ったけれど、愛想笑いをして子供ぶりっこした。 「よくわかりません」 「おやおや、ねえ、ミチル、ちゃんとチャネルが開いたじゃない、私の言葉可解るんだから」 「そうだねダンゴ、でもまだこの家に来てひと月にしかならないんだし、今まで普通の人たちの社会で暮らしていたんだししょうがない」 美実は、女の人をまじまじと見つめた。 ミチルというのはおばあちゃんの名前だ。そしてダンゴというのは…ええ? 「そうだよ、アタシはダンゴ。寂しがり屋のミチルに頼まれて、ニンゲンの形になってたんだ」 「ミミが家に来てから、ミミが学校に行っちゃうと寂しくてね」 おばあちゃんは普通の事みたいに笑った。
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