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招待状
おばあちゃんは、ティータイムをゆったり切り上げると猫の姿に戻ったダンゴを引き連れて書斎へ向かった。美実もついていく。
書斎はガラス張りの明るいサンルームで、年季の入ったライティングデスクとテーブルとソファーがあって、棚にはタロットカードや星読み表、天球儀や月齢カレンダー、沢山の本、ノートパソコン、頑丈そうな木箱が並んでいる。窓際には大きく育ったミニ薔薇の鉢植え、観葉植物の鉢植えがいくつも置いてある。床には明るい彩りの大きなラグマット。
今はミニ薔薇の盛りの時で書斎中がいい匂いがした。
おばあちゃんはライティングデスクの引き出しをかき混ぜて、紙の束を取り出した。美実の前で広げる。
「これはサキが生まれたとき、いずれサキがチャネル開通したら出そうと思っていた、一族への招待状だよ。サキが生まれたときそうしたくなって、紙から選んで作ったんだ。一代飛び越えて今日使うとはね」
「ミチルは気が早いんだよ」
ダンゴがあきれたように大あくびをしてぐうと体を伸ばした。
サキというのは美実の母親の名前だ。おばあちゃんが満(ミチル)その娘であるお母さんが咲(サキ)、そして美実。
満ちて咲き、美しい実となる。
何かの願掛けのような名前の繋がりだ。
「なんの招待状?これから何があるの?」
美実が聞くと、おばあちゃんは頷いた、
「ミミのチャネル開通のお祝いをするんだよ」
「えっ?!お祝い?」
美実は驚いて招待状を眺めた。招待状は何通もある。今までしたことがない。誰かを家に招待してお祝いだなんて。
うれしいより、ドキドキする。
おばあちゃんが月齢カレンダーを見て、ちょうどいい日を探してる。
ダンゴが美実の肩に飛び乗って、美実の頬を舐めた。
「招待するのは魔女の血筋だけだから、体から力抜きなよ。何で泣いてるの?なんにも怖いことないよ?」
「あれ?涙が勝手に出ちゃった…」
おばあちゃんが美実と目線を合わせて美実の頬から涙を拭ってくれた。
「今どんな気持ち?」
「嬉しいとドキドキがいっぺんに来た」
「なんでドキドキするの?」
「お祝いなんてはじめてだから、私良い子でいられるかドキドキする」
「いつものそのまんまのミミでいいんだよ」
おばあちゃんはにっこり笑った。
「ミミの正式な魔女の血筋への仲間入りだ、幸先良く上弦の月の日がいいね」
おばあちゃんは月齢カレンダーの上弦の月の日に花丸をつけた。今日から1週間後だ。
「これから充実する勢いを満ちていく月にもらおうね。さてこれから忙しくなるよ」
「どうして?」
「チャネルが開通しはじめの時は、いろんな声が聞こえて、その中でももっともらしいことを言う良くないものの声がするものさ。それを聞き分けるために心の修養を始めるんだよ」
「難しそう」
ダンゴが尻尾で美実の顔をなでた。
「自分の心に正直で誠実であればそんなに難しいことじゃないさ、人間相手よりは。人間には、相手に意見して操って自分にエネルギーを向けさせたい奴がいるからね。それがいい気持ちだからやめられなかったりね。めんどくさいよ人間は」
おなかおが大きいのに美実の肩から音もなく降りてダンゴが人間なら肩をすくめる動作をした。
「本当に相手を思って大事にしたいなら、そんなことしなくても伝わるのにさ。それがお互い様だとどっちも自由なまま、生きていけるんだ。とても嬉しい気持ちでね」
「どうすれば大事にできるのかな…」
「自分で自分を大事にしてれはそのうち解ってくるよ。自分で試すんだね」
ダンゴはソファーの上に横たわると毛繕いを始めた。おばあちゃんが労うようにダンゴを優しく撫でる。
「ねえダンゴ、ダンゴはもうそろそろちびたちが生まれるんじゃない?いつ頃か、解る?」
「うん、このまま何にもなければ、満月の日に産んでやろうと思ってる」
「いるかい?」
「居るよ。早くミミに会いたがってる」
「そう、有り難うねダンゴ。ミミはイメージトレーニングもしなきゃね」
「二人とも何の話をしているの?」
美実が尋ねると、おばあちゃんはダンゴを撫でながら笑った。
「ミミの使い魔の話。ダンゴか生んでくれるって事。ダンゴの生んだ子だ、頼りになるよ」
「どうしてイメージトレーニングがいるの?」
「ダンゴが出産すれば解るよ。使い魔は、純粋な魔法でてきているんだ。ダンゴが生むけど子猫の姿で生まれない。月満ちるまでは、じっくり神聖にした土と水で練習しよう」
「ニンゲン形のダンゴのように?!」
おばあちゃんもダンゴも頷いた。それから声を揃えて…
「でも今すぐしなきゃいけないことは、とりあえずこの招待状をみんなにとどけるために完成させる事」
おばあちゃんは、一族の最新の住所の入ったノートパソコンを出してきた。
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