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魔女見習いのミミ
朝は五時に起きる。
おばあちゃんと、ゆっくりあっついコーヒーを飲む。
それから、棚に飾ってある立派な大きな水晶のクラスターたちにそっと挨拶しながら丁寧に優しく羽ぼうきをかける。
おばあちゃんに、この水晶のクラスターは人間の歴史よりずっと長い年月生きていて意思があり、チャネルが開通すれば、秘密を教えてくれるから大事にしてね、といわれていた。
水晶のクラスターからホコリを払ったら家の中をすみからすみまで二人で掃除する。
「いい?ミミ、家の中を綺麗に保つとね、悪いやつが入ってこられないんだよ。それに自分たちの聖域じゃないか。聖域は綺麗に保たなけりゃね」
この家に来てからおばあちゃんはミミに染み込むように繰返し繰り返し、一緒に掃除をしながらゆったりと話しかけた。
「悪いやつって、どんなの?」
「目の端をよぎる黒いやつだよ。いい感じがしないから、すぐ解るよ。でもうちで暮らしてるうちはあんまり見ないかもね。こうして二人がかりで綺麗にしてるし、ダンゴもいるしね」
ダンゴというのはおばあちゃんの使い魔だ。黒猫の姿をしている。いつも日の当たる窓辺に香箱座りをして、目を閉じて気持ち良さそうにしている。時々、トカゲやネズミのかたちをした黒いモヤモヤした何かを美味しそうに食べている。
おばあちゃんは、そろそろミミも使い魔を持っていいと思っているみたいだ。
ダンゴのお腹は今大きくて、もうすぐ臨月になる。
掃除がすむと、おばあちゃんは朝御飯を作り、ミミは家の玄関ホールにたって、結界を張る練習をする。
東西南北の風に挨拶をして、心の力を玄関から家全体に広げるのだ。
まだミミには安定した結界を張るのは難しいけれど、おはあちゃんは繰り返し練習をすることが大事だからと、毎朝ミミに結界を張らせる。
あとで、おばあちゃんがミミの結界を強化する。
朝御飯の前に食べ盛りのミミのお腹はグウグウ鳴り出す。
でも、もう一仕事。
朝の空気の匂いがまだ残っているうちに、庭のプランターからハーブをとってきて、ハーブの精霊に祈りながら、よく洗って、手のひらの上でパン!とハーブを叩く。
それからガラスポットに入れて、水の精霊に祈りをしてからヤカンで沸かしたお湯をゆっくり注ぐ。
おばあちゃんが云うには何事も急がないこと、一瞬一瞬丁寧に、自分のペースを守って気をそらさず何かすることで時間を大事に使うことになるんだそうだ。
そうすると、そのうち本当にいいタイミングでやろうとすることが出来るようになるからと。
ハーブティーを飲むのは食後だ。
おばあちゃんがミミのカップに蜂蜜をいれてくれる。それから自分のカップからハーブティーの香りをかいでなんのハーブか当てる。おばあちゃんは百発百中だ。
「今日はミントだね?」
「うん。摘んでって言ってた。」
「そう。もうすぐミミのチャネルも開通しそうだね、この頃誰かの話を聞いた、ってよく言うもの」
ミミは笑った。おばあちゃんとはこんなことも話せる。両親はミミが人でないものの話をするのをとても嫌がっていた。
ミミがおばあちゃんの家に来たのは、1ヶ月前だ。
ずっと魔女の家系だった一族から、ミミの母親は魔力無しで生まれてきた。
ミミの母親は一族の中にいて、普通の人間の幸せを望んだ。
ところが、やっと一族を振り切って結婚して、子供が生まれたらその子は魔力ありの子で、ミミが思春期になると心の力が増してどうしたらいいのか解らなくなって、魔女である自分の母親に預けたのだ。
ミミは自分の見ている世界と両親が見ている世界とではまるっきり違うのは理解していたが最初は両親に捨てられたと思い込んで、おばあちゃんにも反抗的だった。
そのうち、両親には理解してもらえないことも、おばあちゃんとは共有できることに気がついた。おばあちゃんは根気強く、ミミに自分が被害者だと思うのはやめるようにと、教えた。何事も身に降りかかってきたとき、それは自分の引き寄せたことで自分の責任だからと。自己憐憫は心を喰らって大きくなり、そうすると更によくないことを引き寄せ、つけこまれるからと。
物事がうまく行かなくなったら自分の中に自分を可哀想と思う気持ちがないか、瞑想してよく見てごらん。おばあちゃんはミミの肩をそっと撫でて、ミミの大好きな柔らかい透き通った光の宿る瞳を細めた。
朝御飯が終わるとミミは小学校の制服に着替える。両親と暮らしていた頃は学校に通えなかった。ミミの心の力の強さがばれるのを両親が恐れたのだ。今通う小学校はミミの一族が理事をしている私立の学校で、心の力の強い子ばかりが集まっている。ちょっとやそっとの事では誰も驚かないので、ミミも安心して通えた。
それにおばあちゃんと、心の力を自慢するために見せびらかさないことという約束もしている。ほんのちょっとでもそういう気持ちがあると魔力が衰えるそうだ。ミミはまだ心の力が安定していないので必要な時に使えなくなるから気を付けるよう言われている。
「行ってきまーす、おばあちゃん」
「はいはい、いい一日をね、行ってらっしゃい、ミミ」
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