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それと並行して神隣島から500メートルほど先にある神島に橋を渡す大規模な普請工事が進められていた。神島は俺が漂着した海岸の反対側の海岸から望むことが出来る。海峡の途中で主塔を立てる必要がある。船で運んだ土台を海に沈め、その上に立てるのだ。大変なもんだな。神様と繋がろうとする大計画遂行の為に島民を挙げて頑張ってるっていうのに俺一人蚊帳の外だ。
ま、しかし、トレーニングがきついとは言え、こんな結構な立場はないな。何たって可愛いオハルちゃん(家政婦)といい仲になっちゃったからなあ。トレーニングのお陰で日に日に逞しくなる俺にオハルちゃんが惚れちゃったんで両想いになったって訳。
で、或る日なんかお山のお花畑で野菊の墓張りにお互い花に譬えて讃美し合ったりなんかして・・・しかし、この頃、オハルちゃん、元気ないんだ。今しがたも然も悲しそうにしくしくさめざめ泣いている彼女の姿を見かけたんで、どうしたんだいと聞いてみたら鬼のように重くなっていた口を開いた。と言うのも島長から緘口令が出ていたんだ。オハルちゃんが言うには俺に美味いもんを食わして鍛えさせて篤く遇したのは誰もなりたがらない橋の丈夫な人柱になってもらう為なのだそうで、人柱は流れ者に限ると準備万端待っていた所へ俺が現れたんで、これ幸いとこうして俺を生かしているのだそうだ。
俺はそれを知って上手い話には裏があるという諺を今更思い出し、冗談じゃねえと悲憤慷慨した。で、神様に頼んで助けてもらおう!と思いつき、橋の完成間近になった日の深更に万が一脱走しないかと目を光らせる者がいるのではないかと警戒しながら家をこっそり抜け出して実際には誰もが寝静まる闇の中、何事もなく橋の袂まで駆けて来た。そこからも全速力で突っ走って未完成の橋の先まで辿り着くと、勢い海に飛び込んで20メートルくらい泳ぐだけで済んだ。てな訳で浅瀬に立った俺は、神島に無事、上陸した。
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