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オハルちゃんによるとその昔、神島の中心に屹然と聳え立つ神山の天辺に船で渡った神隣島民によって建てられた神社があるそうだから俺はそこを目指して神山の麓までやって来た。と言っても海岸を少し歩いただけだが・・・
標高800メートルくらいだから大した高さじゃないが、オハルちゃんによると狼が住んでいるそうだから俺は有事に備えて持ってきたナイフと闇を照らす月明かりを頼りに用心しながら険しい山道を登って行った。
幾らなんでも人間を襲うことはないだろうと俺は敢えて高を括っていたら人間の匂いを嗅ぎつけたものか、狼らしき物影が叢の中にちらほら動くのが遠目に見えた。が、その物影はすぐに消えてその代わり何と真っ白な大型の狼が俺の目の前に突如として現れたものだから俺はぎょっとして凍り付いてその儘、立ち竦んでしまった。
すると、そいつは人間の言葉でこう言った。
「わしは狼は狼でも大きいの大と神様の神と書いて大神、即ちこの神島に住む神じゃ!お前!こんな真夜中に何しに来た!」
「あ、あなた様が!」と俺は神と知って恐れ入りながら受け取った。「あの、あなた様は今、神隣島民たちがあなた様と繋がろうと橋の建設をしていることを御存知かと存じますが、俺は生きた儘その橋の主塔に埋め込まれ人柱にされることになりましたんで。」
俺がそこまで涙ながらに話すと、大神様は怪訝そうに仰った。
「ひとばしら?なんじゃ、それは?」
「ですから人身御供の一種で・・・」
「おう、あの人間が神が望んでいると思って迷信に従って神に捧げる生贄のことか。」
「左様で御座います。」
「お前は神がそんな馬鹿げた惨いことを望んでいると思うか?」
「思いません。」と俺は答えつつ人間は愚かしいと思った。
「であろう。そんな物をわしが望む訳がない。」
「では俺は人柱にならなくても宜しいんで御座いますか?」
「勿論じゃ。」
「そうで御座いますか、では人柱を無用にするべく島長にお告げ願いたいのでございますが。」
「うむ。分かった。では島長の夢の中にわしが出て、わしは人柱を望んどらん。人柱を決して立ててはならんと神命を下してやろう。」
「そうで御座いますか。それは有難いことで御座います。何とお礼を言って良いやら。」と俺が助かったと思って嬉し涙を流しながら言うと、大神様は仰った。
「礼には及ばん。安心して神隣島へ帰るが良い。」
「ははあ!」と俺が我知らず跪いて頭を下げると、大神様は知らぬ間に姿を晦ましてしまった。
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