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冬物や今使わないものは段ボールのままクローゼットに仕舞い込んで。
ベランダに出て缶ビールをプシュッと開けた。
夕方になると街の雰囲気が変わるんだなあ、と景色を眺めながら。
あれからすぐに部屋を探して一目ぼれしたこの部屋を契約をした。
ナオとは路線も変わったし多分会うことはないだろう街。
だけどどこかあの街に似ている不思議な街。
『じゃあ、ね』
最後に部屋を出ていく私に、ナオはただ頷いた。
別れる女にかける言葉も見つからなさそうな気まずい顔をした彼に。
最後に嫌がらせのようにキスをして笑って手を振って。
『ゴメン、千夏……』
掠れたようなその声と私より先に泣き出しそうな年下男子に舌を出してから背を向けた。
不器用だから配線なんかできないし。
背が小さいから上に荷物なんか入れられないし。
これからは朝の用意も洗濯物もお風呂掃除も全部一人でやらないといけない。
襲い来る寂しさと孤独に首を横に振った。
配線なんか業者を頼めばいい、棚は台を買ってくれば自分で何とかできる。
一人暮らしを始めるんだし、全部一人でやるのは当たり前。
仕事を失ったわけでも友達を失ったわけでもない、だから。
『千夏はオレがいないと生きていけないしね』
は? 生きていきますけどね?
これから一人で生きていけますけど?!
『一緒に暮らそう、ずっと。オレの側にいて』
嘘つき、超嘘つき!!
私はずっとそのつもりだったのに!!
ぼやけた景色に慌てて零れ落ちそうな何かを拭ってから。
気付いたのはいい匂い、ラーメンの匂いだ!!
どこかこの近くにラーメン屋さんがあるのかな。
だったら夕飯、ラーメンにしようかな、なんて。
そんな事を考え始めた自分に苦笑してビールを一気に飲み干して。
スマホにあったナオとの写真をまとめたフォルダを。
最後のため息と共に削除した。
さあ、始めますか、一人暮らし。
ベランダから見る、まだそんなに片付いていない自分の部屋に微笑んで。
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