とりあえず生きてくわ

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 少しずつ少しずつナオが私から離れてくのがわかる。  例えば帰りはほぼ終電で。  待ってた私に。 「先に寝てて、って言ったじゃん」  苦笑してすぐにシャワーに向かう。  何かの痕跡を隠すようにして。  でも、ね、スーツからほのかに香ってくる匂いまでは誤魔化せてない。  1ヶ月くらいしてから、ポツリと言った。 「お互い、少し離れない? 千夏と距離を置きたい」  それはイコール、ナオ名義のこの部屋から出て行って欲しい、ということ。  理由は? 「オレの勝手でゴメンだけど少し疲れた、それと……、千夏とは結婚を考えれなくて、ごめん」  別れよう、じゃなくて。  距離を置こう、自分が疲れた、結婚を考えられないから。  優しい人が必死に紡ぎ出す別れたくてでも。  自分も相手も傷つけないようにしたい台詞。 「サナちゃん?」  あの日偶然見てしまったその名前を口にすると。 「人のスマホ、勝手に見たの?」  驚き私を責めるような目でスマホをポケットにしまいこむナオ。  その行動が別れたい理由の全てを物語っていた。  ナオより5つ年下、つまり私より10も年下のサナちゃん。  派遣で入って来た女の子。  ナオはあっけなくその若い可愛いだろう女の子に(なび)いてしまって。  つまりは今、私は邪魔者だってことだ。  ケンカなんかよりも辛いナオからの無視に私はすぐに耐えられなくなった。
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