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中学二年になった夏。
いつものように山へ行こうとしたとき、たまたま僕を見かけたとある親戚のおじさんが言った。
「山には行っては駄目だ。」
「何で?毎年行ってたよ?」
「は?毎年?まさか知らないのか、あの山の噂を?」
初めて問われた噂、聞いたことのない噂。
ただならぬ気配を身に纏わせた彼の瞳は驚愕と軽蔑が混じっていた。
「とにかく、あの山には入ってはいかん。準備を手伝ってくれ。」
そう言い残し去った。
当然、毎年の楽しみともなっていた彼女との交流を止める訳もなく、警告を聞き入れず山へと向かった。
「あれ?おーい。」
山に入りいつもの場所に辿り着いたが、彼女の姿は無く気配すら無かった。
暫く辺りを探し回ったが、結局見付けることもできずになくなく家に帰った。
まだ忙しなく動く大人達を横目に、親戚の子達と部屋でゲームをした。
「ちょっといいか?」
「あ、うん。」
突然さっきのおじさんが僕を呼び、別室へ連れていく。かなり険しい表情をしていた。
「やっぱり行ったのか...」
「うん、でもいつもいる女の子がいなかったから帰ってきた。」
少し悲しそうに、また不思議そうに自然な流れで彼女のことを口にした時、急に目の前のおじさんから強い焦りが見えた。
何かを訴えるような、だがまるで口には出せない、出してはいけない、そんな葛藤を含む目で見つめてくる。
その後、親戚の中の一部の人達(ここ近辺に住む人)と父親が集められ、話を詳しく話すように言われた。
「お前さんそりゃ、彼女に魅せられたんじゃ。」
「まさか、そんなことがあってはならない。」
「呪いじゃ、呪い。あぁ卑しい卑しい、」
口々に呪いであるとか憑かれたとかを言うので、不快指数も上がり、頭にも来た。
「彼女はそんなんじゃない!あの子のことを悪く言うな!」
それを聞くと、また口々に恐ろしいと言い、分かりやすく自分から離れた。
軽い絶望、彼らへの失望。そんなどうしようもない感情がグルグルと頭の中を駆け巡り、確実に心臓を握り潰し始める。
「健、それを魅せられた、と言うんだ。お前はその子に気に入られたんだろう。」
「は?父さんまで何言って...」
気に入られる、魅せられる、彼女を表現するにあたっては相応しくないその言葉に半ば怒りも覚えつつ、それでもあまりの不自然さに疑問も浮かんだ。
まるでそれが、人ならざるもの、に対する言葉であるように。
「お前の言うその子はな、昔に亡くなっているんだ。」
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