小話 『なきたい』

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「じゃぁ他には?」 「病気をしたりとかだなぁ……」 「ええ……そうなの? だってお父ちゃん、毎朝コロナ対策で検温する時に『あーあ、今朝も36.5度か。これが37.5度あれば2週間の休みが貰えるのになぁ』って言ってるじゃん。病気したいんじゃないの?」 「馬鹿野郎! 程度問題ってモンがあるんだよ!」 「……怒らなくてもイイじゃん。他には?」 「まぁ、アレだなぁ。『旦那が浮気してるのが分かった』とかは、奥さんが泣くパターンだな」 「ふーん? そうなの?」 「……何を不思議がってんだ?」 「だって……この間、お母さんが電話で『うちの馬鹿亭主、いっそ浮気でもしてくれないかしらねぇ。そしたら離婚して慰謝料が入るのに』って言ってたよ? だから嬉しいのかなぁって」 「あのやろう……裏で何て事を言ってやがんだ、まったく! ……けどまぁ何だぞ? そういうのは『思わず口にする』ってもんだ。これが例えば『オレが死んだ』とかなれば、カーチャンだって泣いて悲しむぞ?」 「そうかなぁ。だって一昨日、お父ちゃんがベロベロに酔っ払いながら帰ってきて玄関先で寝ちゃった時に、お母さんがじっとお父ちゃんの顔を見て『……あら、まだ息があるわ』って残念そうに舌打ちしてたけど?」 「勝手に殺すんじゃねーよ! ……まったく、油断ならねぇな。こりゃ、食いもんとか気ィつけねぇとダメか? 毒でも混ぜられたら命に関わる」
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