二三子ばぁと私

1/14
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
 それまで知らなかった。  自分の仕事で人の命を永らえることができるなんて。  そんなこと医者か看護師か医療関係の人しかできないと思っていた。  今から遡ること二〇年も前の話になる。  私がまだ専門学校を卒業して間もない頃だった。  美容学校を何とか卒業し、国家試験も無事に合格し、晴れて社会人としてスターとしようとしていた矢先のことだった。    突然母が倒れた。    私の母は美容室を経営していた。  週一回の休みの日以外は、毎日毎日朝から晩までお客様がひっきりなしに来る、地元ではちょっとだけ有名な美容室のオーナーだ。美容師という仕事柄、気が強く我が強い人が多いのだが、母もまた例にももれず気が強く我が強かった。  サラリーマンでパッとしない父は、いつも母の尻に敷かれ肩身が狭い思いをしていると、私が幼い頃からよく愚痴っていた。    当時母は四五歳と現役美容師としては脂の乗ったイケイケのときだった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!