さよなら、先生。

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さよなら、先生。

私は普通の小学校の先生である。そして夏休みの宿題を見ている。宿題というのはひと夏どう過ごしたかが表れるものである。 「次は絵日記か……」 そう言いながら、生徒の絵日記を手に取る。例年なら誰のから読むか迷うものではあるが、今年は最初に読む人を決めている。 『植村奏(うえむらかなで)』 絵日記の名前欄にはそう書かれていた。ページを一ページずつめくっていく。 『7月29日 今日から夏休みが始まる』 楽しそうな少女の笑顔の絵がそこには描かれていた。 『7月30日 明日、花火大会を見に行くことになった 7月31日 花火大会で先生に会った。約束を交わした』 そういえば、確かに花火大会で彼女に会ったな。水色の浴衣を褒めたのを覚えている。そして宿題をやることを認識させるために約束したのも覚えている。 『8月1日 スイカを食べた』 こんな風にして後も続いている。しかし、二十七日目になってこう書かれていた。 『8月27日 明日は先生との約束の日。だから新しいの服を買いに行くの』 彼女の服を選ぶ絵が描かれていた。私は思わず、鼻を絵日記にくっつけて吸い込む。いい匂いがしてきそうだ。しかし……。 『8月28日』 そこに書かれた日付の日から先は何も書かれていない。そこにあるのは赤く血に染まったページだけだった。そして私はイスを引いて机の下を見る。 「その服、かわいいね。植村さん」 そこには体と頭を引き離されて、両手の上に頭を乗せてる血だらけの彼女があった。これを見たら、この子の担任はさぞかし見くびるだろう。私は自分の席に戻って自分のクラスの絵日記を見るのだった。その間、椅子の隙間から覗かれた彼女の顔はこっちを見つめてるのだった。ノートの最後のページに書いてある一言を言うかのように。 『さよなら、先生。』、と。
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