刹那の永遠

4/9
前へ
/25ページ
次へ
 背伸びしなくていいよ、かっこつけなくていいよ、素のままで良いよと、そう語っているようにも思えた。  思わず笑みがこぼれると、彼女の微笑みはより一層可憐に柔らかになり、珊瑚の唇から真珠の歯が覗いた。  感じた事もない程胸が高鳴る。顔が上気する。目の前の相手が愛おしくて眩暈さえ覚える。この狂おしさをなんと言葉に出来ようか。いや、することは出来ない、必要もない。だってきっと相手に伝わっているから。 「いこ」  光が舞う様な笑顔のまま、はしゃぐように僕を引っ張り先を行く一日だけの恋人の手に指を絡めたまま、僕は早鐘の様に打つ胸の痛みに手を置いて後を追っていた。  暗くなってしまった今出来る事なんてほとんどない。さすがに夕暮れになった後から始まるデートなんて想定していなかったからこの優しい女性を楽しませる自信なんて無かった。  ただ、  素の彼女と向かい合ってする食事は交わす会話も、聞きなれているのにいつもより耳に心地よい声も、女の子らしい仕草なんかも、何もかもが僕の心を喜びで満たして行った。口にする物の味なんてわからなかった。  そして今の幸せが今日だけだって事が血を吐きそうに痛かった。  姉ちゃんは誰よりも素敵だ。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加