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「あの」
僕の声は小さかった。
「うん? なに? 」
「手 手を握っても いい ? 」
ここに来る間に何度か握ったけれど、やはり勝手は良くないと思った。
「うん」
彼女は上体をよじって両手を出して来た。そっとその手に自分の手を重ねると、お互いの指が絡んで軽く握り合う。
繊細な指はこんなに細いのに少しも骨っぽくなくてやわらかい。僕の手の方が大きいのに掌全体を包まれている様な感覚を受けて安心感に包まれる。
「泣いてるの? 」
彼女の言葉に僕は自分がそうしている事に気付いた。
手を握ったまま恋人が涙をぬぐってくれる。折角そうしてもらったのに、なのに、僕は肩を震わせていた。
絡めていた指が放され、急に不安になった僕は次の瞬間それ以上の安心感に包まれていた。
愛する人の胸の中で、僕はみっともなく泣いた。それは、デートをすっぽかされた事からなのか、別の理由かなのか、そんな事どうでも良いと思えるくらい素直に泣いた。
優しく撫でられる背中と頭に押し付けられている彼女の頬が、本人さえ理解できていない僕の気持ちをすべて悟っているかの様に思えるほど慈愛に満ちていた。
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