恋する幽霊バンド

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恋する幽霊バンド

 おれはたぶん時代の先を行きすぎたんだ。  おれとエルヴィスにどれほどの違いがあるというのか?  むしろおれのセンスの方がはるかに上だ。  おれの音楽が理解できないなんて、この業界バカしかいねえと言ってるうちに、おれは三十五歳になっちまった。  だいたい、音がうるさすぎるってなんだ!  うるさくねえロックなんてロックじゃねえんだよ。  うるさすぎるのはおまえらの方だ。  ルールを守れとか迷惑をかけるなとか。  そういうことが嫌だから、できないから、こちとらロッカーやってんだ。  最近のロックはロックじゃねえ。  カッコつけるだけで魂(ソウル)がねえ。  ソウルがねえロックなんか酒のない人生と同じだ。  やれ裸になるなとかステージを壊すなとか楽器をだいじにしろとか。  クソ食らえだ!  創造ってのはなあ、破壊から生まれるんだ。  今あるものを守るのはただの堕落だ。  おれはすべてをぶっ壊す。  完全な自由を手に入れるために。  好きなことをして、好きなものを食って、好きな女を抱いてやる。  バカにしたけりゃすればいい。最後に笑うのはおれだ。  おれはおまえらの度肝を抜くようなすげえ曲を書いてみせる。  幽霊だって踊り出すようなすげえ演奏を見せてやる。  夢見てるんじゃねえよ。クスリやってるわけでもねえ。  クスリなんてのは才能の涸れたやつが現実逃避で手を出すもんだ。  おれには必要ねえ! まったくやったことねえとは言わねえけどな。  もうちょっとだったんだ。  もうちょっとで幽霊の踊り出しそうな曲が書けたんだ。  でも、借金踏み倒して逃げ回ってたら、借金取りにコンクリ詰めにされて東京湾に沈められちまった。  馬鹿なやつらだ。せっかくのカネのなる木を海に沈めちまって。  あと一年待ってくれれば、曲が売れた印税で五百万くらい利子つけて返してやったのに。  すげえ演奏を聴かせて、今までバカにしてたやつらを見返してやらねえことには、おれは死んでも死にきれねえ。  そう思ったら、おれは幽霊になっていた。おれの死体は永遠に東京湾の海底に沈むコンクリの中。おれのソウルは今日も素敵な音のする街をさまようのさ。
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