前編

2/5
前へ
/12ページ
次へ
 最初の企画会議で難儀していると、同僚のSという男が手を挙げた。 「心霊スポットとか、ちょっと話題になりそうじゃないですか?」 「そんな場所、この辺りにはないぞ」  無気力を隠そうともしない顔で、課長が呆れつつ言った。 「ないなら、作ればいいんですよ。俺、いいとこ知ってるんです。峠に続く国道。あれを峠の手前で左に曲がってしばらく進むと、林があるんですけど、その奥に廃神社があるんです。あれは雰囲気ありますよ」 「よく、そんな場所知ってますね」  私は生まれてから30年、ずっとこの町で生きてきたが、そんな神社の話は聞いたことがない。驚き半分、疑い半分といった私の言葉に、 「この部署に異動って決まって、町中見て回ったんです」 「けど、どうするんだ。うちに心霊スポットがあります、なんて大々的に嘘つくわけにはいかんぞ」 「いい考えがあるんですよ」  ニッと笑うS。  確かに公的に紹介するわけにはいかない。だから世間に対して影響力のある人物、いわゆるインフルエンサーに私的な形を装って情報を流してもらおうというのがSの考えだった。オカルト系のYouTuberが興味を持って撮影に来てくれたら、動画を見た人も町に来てくれるかもしれない。 「まあそれなら、問題ないか。どうせ予算も少なくてろくなことはできんし、任せていいか?」 「ええ。ありがとうございます」  自分のアイデアが採用され、Sは嬉しそうに頭を下げた。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加