前編

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 二日後、廃神社を確認してくるよう課長に言われ、私はSと一緒に現地に向かった。例の国道を左に折れると、曲がりくねった細い道が伸びていた。道の両側は荒れた田畑や木立ばかりで、時おり見える民家も、長い間使われていないようで今にも崩れそうだった。 「この辺りにも昔は集落があったそうですよ。今では、誰一人住んじゃいませんが」  車のハンドルを握りながらSが言った。一応ここも黒澤町の一部のはずだが、集落の存在は初めて聞いた。  やがて景色は深い木立だけになり、少し走ると車道も途切れた。目の前は緩やかな登りの斜面になっており、おびただしい樹木が生い茂っている。 「この先ですよ」  Sが車から降り、木々の間を縫うようにして登っていく。その足下を見ると、周りよりも微妙に草が少ない。かつては道だったのかもしれない。  私もSの足跡をなぞるようにして後を追う。  服を枝に引っかけたりしながら登っていると、いきなり視界が開けた。  小さくて古びた鳥居。そして、ボロボロの社。規模としてはとても小さなものだが、確かに神社だ。 「こんな場所があったなんて……」 「雰囲気あるでしょう。いかにも、って感じで」  確かにここなら、と思えなくもない。田舎の端にある廃神社。昼間でも薄暗く感じるくらいだから、夜中はきっと真っ暗だ。  オカルトに詳しくない私でも、心霊スポットらしい場所だと思う。  インフルエンサーに紹介してもらうため、私は廃神社の写真をスマホのカメラで撮り始めた。  鳥居、社、水の枯れた手水場。境内を歩き回り、様々な物にカメラを向けていると、隅に小さな廟を見つけた。 「何を祀ってるんでしょうね?」  シャッターボタンを押しながら、私は呟いた。 「さあ。こんなボロ神社じゃ、神様もいなくなってるんじゃないですか?」 「けど、いいんですかね。心霊スポットだって紹介して、利用するなんて。なんだか、罰が当たりそうで」 「ないない、そんなこと。むしろ感謝して欲しいくらいですよ。こんなに寂れた神社に、また人が来るようになるかもしれないんですから」  人が来るといっても、それはみんな遊び目的だろう。そう突っ込みたくなったが、Sの脳天気な様子に気が抜けてしまった。  どこかに神社の由来を掘った石碑などがないかと歩き回ったが、見つけたものは風化が酷くて読めなかった。神社の名前すらも分からなかったが、役場に戻って古い地図を調べたところ、「逢池(あうち)神社」という名前で載っていた。
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