前編

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 それからSが中心になって企画が進められた。Sは都会の大手企業で広報などを担当していた経験があり、そのときの縁でインフルエンサーの知り合いが多いそうだ。その知り合いたちに依頼し、インスタやTwitterで投稿してもらったり、直接オカルト系のYouTuberに直接メッセージを送ってもらったりした。  一ヶ月ほどして、動きがあった。YouTubeに、逢池神社を撮影した動画がUPされたのだ。撮影者はオカルト系のYouTuberで、深夜に境内で肝試しをするという内容だった。逢池神社の場所の説明もしっかりしてくれている。  けっこう人気なチャンネルらしく、再生回数の伸びがいい。コメントも好意的なものが多く、「私も行ってみたい」なんて書いている人もちらほらといた。  動画が公開されてから数日後、Sが興奮した様子で私のデスクに来た。鼻の穴を膨らませ、自分のスマホを見せつけてくる。 「見てくださいよ、やばいです」  画面には、例の動画の一場面が映っている。YouTuberが社を撮影しているところだが、何がSを高ぶらせているのか分からない。 「ここ、ここ」  首を傾げている私を見てもどかしげに、彼は画面の右端、社の向こう側に拡がる暗闇を指さした。暗くて映っていないが、そこには木々が生い茂っているはずだ。 「出たんですよ、まじで」 「え?」 「だから、幽霊」  目をこらすと、確かに闇の中に人影のような、白いもやのようなものが見える。曖昧すぎて、今までは気づけなかった。Sが言うには夕べ、視聴者の一人がコメントで指摘したのをきっかけに他の視聴者たちが盛り上がり始めたという。コメントの中には、「○分○秒、変なうめき声が聞こえる」「この動画見てると頭痛がする」といったものも見られる。投稿主も編集していながら気がつかなかったとコメントしているのが、視聴者にリアリティを感じさせているようだ。  動画の再生回数は急上昇し、SNSでも逢池神社や黒沢町に関するツイートが増えているらしい。 「こんなの、霧かなにかでしょう?もしくは合成?」 「いいんですよ、そんなのどうでも。必要なのは盛り上がること!俺たちの仕事は、この町を盛り上げることなんですから。本物かどうかなんて、気にすることはないんです」 「そうかな……」 「それより、これから忙しくなりますよ。こんな取れ高が期待できるスポットなら、オカルト系に限らず有名無名のYouTuberがこぞって押しかけてきます。SNSで町の公式アカウントを作れば、向こうからコンタクトを取ってくれるかも。そうすれば、一気に町の名前が世間に知れ渡ります」 「いいのかな、それ」  勢いに圧される私を気にせず、Sは鼻息荒く自分のデスクに戻っていった。
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