泣かない理由

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泣かない理由

 あれはまだ私が3歳に、なったかならない頃。  私は本当の父親の肩に担がれ大泣きをしていた。    連れていかれるのが怖かったからじゃない。  ただ、母親はおんぶもしなかったから、  急に高い位置に置かれて怖かったからだ。    私は「おかあさん、おかあさん」と泣いていた。     本当の父、母と離婚して九州に帰ってしまった本当のお父さんは、優しい人だった。母の本性を知っているからこそ、心から私の行く末を心配し迎えに来てくれただけだった。それなのに私は泣いてしまった。  この状況を見て、周囲の人々は私が誘拐されそうになってると、勘違いしてお父さんを捕まえた。    勝ち誇った顔をして仁王立ちの母に対し、お父さんは何度も地面に額を擦り付け懇願していた。  「アリサを私に育てさせてくれっ、お願いだ」    私はまだ泣いていた。  お父さんは、その後警官に連れられて行ってしまった。  私は思うあの時何でお父さんと一緒に行かなかったんだろう、と。  そうすれば、こんな底辺で酒を飲んで管を巻くクズ母とは縁が切れていただろうに。    私は、そのことを思い出し、そのことに気づいた時から  泣くことに躊躇(ちゅうちょ)するようになった。
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