黒髪ロングは危険な香り

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黒髪ロングは危険な香り

 頭の中がチカチカして、視界は暗いままだ。  しかし、痛い、今度は頭皮がめちゃくちゃ痛い。  これは、既視感、いつものクズ母の仕打ちと同じ感覚。  ズルズル、何かを引きずる音がする。  ゴンゴン、頭が地面の凹凸に合わせて上下する。  多分……点字タイルだ!  私、髪の毛を掴まれて引きずられている!  痛みで気絶した私は、再び痛みで覚醒した。    「痛い痛い痛い」  「やめてよ」    不思議なことにこの訴えは聞き入れられた、引きずりが止まり髪の毛は解放された。    まだちょっとクラクラするが、立ち上がった。    目の前では、私の『彼氏』が怒って立っていた。  「お前、俺の彼女の自覚はあるのか!」  「ありません」  鉄拳が飛んできた。  今度は意識は飛ばなかったが視界が赤くなった。  「お前と俺は付き合っているんだ!」  「だったら、毎日一緒に帰るのが本当だろう?」  「俺に恥かかせやがって」  「俺の帰りを待たないで」  「俺に断りもなく、勝手にマクドナルドで楽しそうにしやがって」  『「俺」多いな』アリサは自称彼氏が興奮冷めやらぬ状態であることを感じた。  セルフバーニング、自分の発する言葉に自分で興奮に拍車をかける状態だ。  『やばい!』アリサは生命の危機を感じ取った。  「先輩っごめんなさい」アリサは自称彼氏に抱き着いた。  こういう時は距離を取ってはまずい。  パンチを繰り出すには最低10センチメートルの空隙が必要なのだ。  密着してその隙間を埋める。    アリサは度重なる母との死闘で、身をもって知っていた。  「アリサ」抱きしめる先輩。  私は顔を上げ身長差のある先輩の顔を見上げると、  半分赤い視界の中に泣いている先輩の顔が映った。  『なんで暴力を振るう相手の方がいつも泣くんだろう?』  「一緒に帰るか?」  私は無言でうなづいた。  食べ損ねたフィレオフィッシュバーガーに未練を残しながら。    因みに、この日のケガは後遺症が残った。   
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