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月光の公園
雲の暈しから放たれた月光が、二人を照らす。
二人はお互いを-12.6等級の明るい月光の中で確認した。
「眼球に損傷がある」とホームレス。
「あなたの目は光があるわ」と私。
嚙み合わない会話は、逆に二人とも相手を意識していることを如実に表していた。
「僕のテントに行こう」
彼のテントに入るときちんと片付けられていて毒親の待つ家より清潔だった。
私は彼がダレスバック(お医者さんのがま口みたく開くカバン)から取り出したペンライト、で左目を丹念に調べられ、清潔な水で目を洗われた。
「出血が眼球で、かさぶたになるとまずいから…」
「眼圧を下げないと」
目にはガーゼを当てられ、圧力がかからないように手当を受け、目の周りを氷で冷やされた。
「とにかく安静にしてて」
「なんかお医者さんみたい」って私。
「ああ、三ヶ月前まではね医者だった」
「え?」
「病院内の派閥と汚職でね、スケープゴートだ」
「そんなことより、今は君の体だ落ち着いて休んで」
私は言われたと通りに休んだ。
「ねぇお願いがあるんだけど」私は自然に口をきいた。
この人は信頼できる。
いつもの言い淀むクセが消えていた。
「手をつないでいてほしい…」
その夜はぐっすりと眠った。
まだ、彼の名前も聞いていなかった。
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