1章-4 別れ

3/10
前へ
/260ページ
次へ
 朝食を終えると乃亜のスマホが鳴った。 「げっ…父さん」  画面を見て渋々『通話』をタップする。 『お前は何をしでかしたんだー!!』  という、怒鳴り声がハンズフリーにしなくても、部屋中に響く。 『今日のお見合いは西園寺側からキャンセルになった!!帰ってきて、状況を説明しないさい!!』  涼が、スマホを渡すようにと、乃亜に手を差し出した。  乃亜は「?」と思いながらも、父の怒鳴り声が響くスマホを涼に渡す。 「昨夜、お電話を差し上げました、東郷の秘書の成宮でございます。本日ご自宅まで乃亜様をお送りいたしますので、その際にでもご説明させていただきます。後ほどお伺いいたしますので」  とだけ、早口で言って、ブツッと通話を切った。 「これでよろしいでしょうか?」  と、乃亜にスマホを返す。  乃亜は呆気にとられながら、頷いた。 「やはり、お1人で帰すのはまずい状況になっていますね」    乃亜は暗くなったスマホの画面を見つめたまま、 「でも、今夜はゆっくり眠れそう」  と、呟いてホッと安堵する。 ***  後日、乃亜の話によると。  西園寺のお見合いドタキャンは、パーティで乃亜が一緒に東郷とダンスをし、注目を浴びたのが気に障ったらしい。  しかもパーティの途中でΩのフェロモンが漂っていた。それは東郷と乃亜がダンスをしたからではないか?しかも、その後、乃亜の姿がパーティ会場から消え、東郷の部屋に泊まったという噂が広がっていた。  パーティ会場でのフェロモンは蒼のもの。だが、確かに蒼を連れ出して、付き添って泊まってしまったので、事実と言えば事実だし、違うと言えば違うし…。という状況なのだが。  最近は何かと東郷グループに負けている西園寺グループにとって、お見合い前日に…!ということが面白くなかったらしい。  乃亜は父親に激怒されるが、涼の説明により事態はあっさり収束した、とういことだった。 ***  ホテルで別れ際、不安そうな顔をする蒼を、乃亜は、 「なんかあったら連絡してこいよ。相談くらい、乗れる」  と言って抱きしめた。 「うん…、ノア、いろいろと…ありがとう」  蒼は精一杯笑おうとしたが、どうしても顔がひきつった。
/260ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3251人が本棚に入れています
本棚に追加