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蒼が目を覚ましたのは、陽がすっかり落ちてしまった時間だった。
見慣れない部屋のベッドの上。
下半身は裸のまま、上半身に身に付けていたシャツは汗でベタベタしていた。
喉の奥がヒリヒリして、熱っぽい。頭がボーっとして、体の芯がジンジン痺れるような感じがする。
部屋の外からは何やら物音が聞こえ、蒼は床に落ちていたズボンを身に付けると、恐る恐るドアを開けた。
そこはソファの置かれた広いリビングだった。大きなカーテンが掛けられた壁一面は、開けるとおそらく大きな窓なのであろう。
奥に、フルフラットのアイランドキッチンがあり、大きな観音開きの冷蔵庫と、食器棚が見える。
キッチンの手前にある6人掛けのダイニングテーブルセットの椅子の一つに、貴良は座って頬杖をつきながらスマホを見ていた。
テーブルの上にはお茶碗とお椀が伏せてあり、おかずの盛られた皿が並んでいる。
その横には、昼に病院で出された薬の紙袋が置いてあった。
ドアが開く音に気が付いて、貴良が振り向く。
すぐに駆け寄ってきて、蒼の体を支えてくれた。
「お薬飲んで、シャワーを浴びましょうか?食事の支度もできていますよ」
と言って、ソファに座らせると、薬と水を取りにキッチンへ戻る。
差し出されるままに口に含み飲み込むと、ソファの肘掛けにもたれた。
貴良はいつの間に用意したのか、蒼のために真新しい肌着とパジャマとバスタオルを持ってくる。
ソファに染み込んだ、サンダルウッドとパチュリにベルガモットをブレンドしたような香りで、ここが東郷一馬の自宅なのだとわかる。
だが、主の気配はない。
――ここが僕の居場所になるのかな?ここで飼われるのかな…?
だるさの残る頭で、ぼんやりと見回す。
どこかの高級マンションの一室なのであろう。東郷家の屋敷には見えなかった。
きれいに整頓され、掃除されているが、生活感があるところを見ると、東郷一馬はここで生活しているのであろう。
「シャワー浴びましょうか?」
蒼の着替えを持った貴良に支えられる。介助されてようやく動ける自分が情けなくなってくる。
「脱いだものはこのカゴに入れてくださいね。私かハウスキーパーさんが洗濯します。クリーニングに出すものもこのカゴでいいです。見て分けますので、汚れたものはここに入れておいてください。シャンプーやボディーソープは一馬様のを使ってください。あの方、そういうものにこだわりが全然ないので、ドラッグストアで私が適当に買っているのですが…お気に入りのものがございましたら用意いたしますね。…椅子に座って体、洗ってください。ひっくり返ったら危ないですから。…洗えますか?手伝いましょうか?」
脱衣所やバスルームの使い方を説明してもらっているうちに、フラフラと座り込んでしまい、結局貴良に体を洗ってもらうはめになる。髪は諦めて、とにかく体にまとわりついている汗やら何やらをスッキリ洗い流してもらった。
並べられた夕食には少しだけ箸をつけた。
ただただ、だるくて眠い…。
今が何曜日の何時なのかもわからない。
とてつもなく長い時間を過ごしたようでいて、初めてヒートを迎えてからまだ1日しか経っていなかった。
こんな時間がいつ終わるのだろうか?
何も考えなければ早く過ぎていくだろうか?
そもそも、こんな時間に、終りなんて来るんだろうか…?
深い海の底にでも延々と沈んでいくような気分で、蒼は再びベッドに潜り込んで眠った。
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