1章-5 夢うつつ

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「ところで…、北山の件はどうなった?」  ケーキを食べ終えた頃、南川が真面目な顔をして東郷に切り出す。  しかし、 「ん?…んー」  東郷が何か言い淀んで、蒼をチラッと見る。  そして、 「蒼は乃亜の小さい頃からの友人だ」  と言うと、南川がビクッと驚いて、蒼の顔を見る。明らかに困惑の色が目に浮かんでいる…。 「あ…えっ?あぁ…。前に言っていたΩの友達って…乃亜?」 「伊予は…乃亜の義理の兄だ。2年前に、乃亜の姉と番になって結婚している」  東郷と南川を交互に見て、「何の話?」と不思議そうにしている蒼に、東郷は言った。 「え?だって、乃亜の姉なら…北山の……」 「そう。北山のΩを嫁にもらっているんだよ、伊予は」  思いがけない話に、蒼は驚く。  2年前、乃亜が高校に入学した後、3歳年上の姉が結婚して家を出た。それから乃亜が『北山のΩ』として何をしていたか知っている。美大に行きたかったが、それも断念したことも知っている……。 「南川の病院を継ぐことを条件にね~本家の叔父様に大金積んでいただきました~」  「まぁ、お前らだって似たようなもんだろ」と付け足したのはどういう意味なのだろう…? 「乃亜は元気?」  南川がわざと明るく振舞おうとしているように見えて、違和感を覚える。 「先週パーティに来てた」  東郷が蒼の代わりに答える。 「へぇ~、目立ちたくないあの子が?行けば絶対目立つってわかっているのに?」 「蒼がいたからだろう?」 「ふ~ん」 「蒼がαだったら、番にしてくれって言われていたんだろう?」  東郷が蒼を揶揄うように言う。 「なんでそれ知っているんですか?!」 「乃亜本人が言っていた」 「…そんなに仲がよかったんだ。…じゃぁ、いろいろ聞いているんだろ?家の事とか…」  蒼は「はい」と言わなくてもバレているような気がして、何も言えなかった。でも、南川と乃亜の関係までは知らない。踏み込んじゃいけなさそうなものを感じて、どうしたらよいのかわからなかった。  乃亜は蒼が通っているクリニックが南川のところのクリニックだと知っている。それでも、自分の義理の兄が南川伊予だと、バースクリックの医師であると一言も蒼に言っていないのには何か理由があるのかもしれない…。  そして、南川は北山家のことで何か東郷に頼み事をしている。でも、東郷はそれを自分に聞かせないようにした…ということまでは、蒼は感じて、何も聞かないことにした。
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