1章-10 前へ…

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「貴良、今日はすまなかったな。次からは断っていいから…」  涼が運転する車の後部座席にもたれるように座って、「あ~疲れた」と深いため息をつくと、一馬は助手席にいる貴良にそう言って、ネクタイとYシャツを緩めた。    一馬の隣には蒼が座っている。手を伸ばして、蒼の頭をそっと撫でた。 「いえ、蒼様が行かれる時は私も付いていきます。…というか、悠馬も、養父母も……あんなに、私に会いたいと思っていてくれたなんて思ってもいませんでした。今日は…それだけで…」  フッ…と笑って、「嬉しかった」と言って、α用特別居住区の街並みが流れていくのを、ドアに肘をついて眺めていた。  α嫌いの貴良には、αばかりが集う東郷家の親族会はキツかった。だから、声を掛けられても参加することを断り続けていた。  祖父母がΩ軽視なのも、愛人のΩが自分に『Ωの幸せとは』を論じてくるのも苦手。参加するなら一馬の部下として行きたいが、次太郎夫妻の養子であるということで、それを許してもらえない空気も苦手だった。  高校時代を家族として過ごした次太郎の家族。厄介者のお荷物を一馬と祖父に押し付けられただけだと思っていた。  やんちゃな小学生だった悠馬に勉強を教え、仕事が忙しかった2人に代わって面倒を見、時にはおやつなんかも作った。いつまでもやんちゃではいけない。一馬を見習えと、何度諭したかもわからない。  貴良にも弟がいた。やんちゃ過ぎて、結局やんちゃな問題児のまま大きくなったと噂で耳にするαの弟…。悠馬が重なって見えていたのかもしれない。  だから悠馬が貴良に懐いているのはわかる。  でも、そのことを次太郎夫妻に感謝され、我が子のように気に掛けていてくれたなんて思いもしなかった。  あんなにも自分の事を家族のように思っていてくれたとは、あの頃は自分のことだけで精一杯で顧みることもしなかった…。  涼が交差点の赤信号で停車すると、ポケットの中からティッシュを出して、そっと貴良に渡す。  貴良はそれを受け取って1枚取り出すと、そっと目頭を押さえてから鼻をかんだ。
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