第一部

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ふぎゃー、ふぎゃー。 …赤ちゃんの声が聞こえる。 …違うな、私の声? 「・・・」 ああ、やっぱり私? 「ふぎゃ」 私だ・・・。 ふと。お腹のあたりがもやもやと熱いような感覚。 すると急に背中までお腹の中のものが押し出される感覚に陥った。 痛い・・・? へその辺りにチクリと痛みを感じた次の瞬間。 痛ったー! 我慢できないほどの痛みに襲われた。 いやだ、死にたくない。 あれ?死にたくない? このまま死ぬなんて嫌だ! あれ?なんでだ?どういうこと? 死ぬくらいなら、もう一回人生やり直したいよ―!痛いよー! ふ、ふぎゃ―、ふぎゃー。 この声は私なんだ…。 ふぎゃ、ふぎゃー! 赤ん坊の泣き声だけが耳に残り、私は暗闇の中へと落ちて行った・・・。 あれ? 気が付いた時、さっきまでのこと思い出す。 確か朝早くから、電話が鳴って、隣の部屋で寝ているダンナをおこしに行った。 何? ああ、コロナかもしれないから休むという部下からの連絡、すぐに出るねと、朝食とお弁当を二人分作り、自分だけ済ませ部屋を出た。 仕事は食品会社の接客担当。 早い話レジのおばちゃんだ。 全ての売り場のシフト、コロナ対策、最後に金銭を運び出し、事務員とあちこち忙しく走り回っていた。 お昼休み、子供のいる同年代のパート職員。 気を遣う。 こっちの方が正社員だが子供がいない分、話に入っていけない。 ただ介護の話になると、そうよねー大変よねーなんて合図地を打てるほど私は疲弊していた。 原因は夫。自分の親に対しての関心のなさ。私も親がいるが、二つ上の彼の方の親が断然年上で、こんなにも早く介護かなんて。思っても見てなくて。 仕事で疲れ、夫の両親につかれ、部屋に帰れば、愛人の所に行っている夫を何でこんなことをしてまで待っていなきゃいけないのか? 部屋で大暴れ、キッチンにあった彼の椅子を思いきりほおり上げ叩きつけた。 粉々になった椅子。 帰ってきた彼に愚痴のオンパレード、帰ってきた言葉は、頼むよの一言。 それを愛人にやってもらえというと、そのままスルー、コンビニに行ってくると出ていった。 何なの! あきれ返って、風呂に入り、一人ビールを飲んでいた。 ドアを叩く音。 何? 鍵かけたの? 鍵を開け、私は何かを言いかけた。 ドン! お腹に鈍い痛み、そしてスローモーションで後ろに倒れていく自分の姿。 暑い夏だった。 気がつくと。 「アブブ、ぶるる」 やっぱり自分の声…だ。 私、生まれ変わったんだー。 何にも見えない世界。 生まれたばかりでも、これほどまでに記憶があるというのはどういうことなんだろうか? まあしゃーない、ここで生きるしかないんだろうから、それなら腹をくくりましょうか? 「アブブ、あぶーあぶー」 ラッキーでしょう。 人生やり直せるなんて最高じゃん!そう思うことにしましょう。 そして、ここがいい世界でありますようにと願うのだった。
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