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 湾岸線を南下し、大黒埠頭を抜けたあたりで、不審な影が動いた。  そいつは一番後ろにいるミハイルの部下のBMW の脇をするすると上がってきた。と同時に先頭のメンバーからの警戒ランプが点滅した。イリーシャの声がワイヤレスから叫ぶ。 「対向車線、警戒して下さい。怪しい車両がいます」 「了解」  俺は対向車線から離れた車線に走行ラインを変え、隣にはチームのメンバーの車体が被さった。  その時だった。対面車線から走ってきた車のフロントガラスが小さく光った。 ーヤバいー  避けられるが遥を脅かしたくはない。そう思った矢先、先ほどの不審なバイクが俺達を追い抜いた.。.....と同時に対面車線にいたあの怪しい車がタイヤをバーストさせ、反対側に大きく振れ、後ろから突っ込んできた車に大きく路肩側に跳ね飛ばされた。  不審なバイクは、俺達の脇に一度下がると、右手を上げ、軽く挨拶をして走り去った。 ー何者だ、あいつ.....ー 「何かあったの?」  対面から猛スピードで走ってくる救急車とパトカーのサイレンに遥が身を竦ませた。 「事故らしい。巻き込まれると面倒だ。先を急ぐぞ」  俺は遥を振り向いて叫び、アクセルを噴かした。  高速を降り、一般車線に入って目的地を目指す間は、それからは何も無かった。遥には済まないが、俺は少し遠回りをして、住宅街の外れの雑多な路地裏を抜け、インターナショナル-スクールの脇で少し止まった。 「どうしたの?」 と訊く遥に、なんでもない....と首を振り、校庭から三々五々に駆け出してくる子供達を見つめていた。  まっすぐ走ってくるひとりの男の子、それを満面の笑みで迎え、抱上げる昔の俺に良く似た男....。男の子は、彼に肩車されて楽しそうに何か話しながら、向かい側の道を帰っていく。今日は、いや今日も色々な『いいこと』があったのだろう。彼の毎日は、きっと楽しいことでいっぱいに違いない。 ー良かった...ー  俺は二人の姿が視界から消えるのを待って、反対方向にハンドルをきった。 「大丈夫?」  遥が、心配そうに俺の顔を覗きこんでいた。 「大丈夫だ。なんでもない」  俺は精一杯の笑顔で、遥に返事を返した。引き返す道すがらには、俺とオヤジの住んでいた古いアパルトメントがあったが、今は白い覆いがかけられ、工事中になっていた。無理もない。昭和の初期に建てられたモダンな建物だったが、俺達が住んでいた頃から老朽化が激しかった。商店街の外れにある喫茶店はまだ健在で、窓の向こうであの若いマスターが皿を拭いていた。俺はほっとして、海岸沿いにバイクの向きを戻した。  赤レンガの倉庫群が見えてきた。遥も疲れて腰が痛くなってきただろう。俺はお洒落なベンチの並ぶ一画にバイクを止めた。 
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