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 潮風を存分に浴びたところで、少々腹が減ってきた。 「中華街に飯でも食いにいくか?汚いけど美味い店があるんだ」 「中華街!?俺、行ったこと無い」  俺の誘いに遥が眼を輝かせた。俺達は駐車場に向かって歩き始めた。....と、そこに何やら酔っぱらっているらしい若者が寄ってきた。 「そこのキレイなお兄ちゃん達、俺達と飲まない?」  殺意はない。若者の背後に眼をやると二、三人の学生っぽい連中が固まってこちらを見ている。 ーナンパかよ.....ー  俺はチッと舌打ちをし、伸ばしてくる手を払いのけた。 「何しやがる!」  ガキが吠えた。捩じ伏せるのは簡単だが、遥に怪我をさせてはいけない。俺は身構え、反撃に備えた。....と同時に、そいつの身体がふっ飛んだ。 ーイリーシャか?ー と思ったが、そこには見かけない男が、にっこり笑って立っていた。 「大丈夫ですか?」 「大丈夫だ。いらないことすんな!」  俺が語気を荒くいっても男は相変わらず笑みを崩さない。俺は思わず遥を背中に隠した。  イリーシャ達が男の周囲を取り囲むと、男の気配が変わった。殺気をイリーシャ達に向けて迸らせながら、穏やかな表情を崩さない。 ー何者だ、こいつ.....ー  俺が警戒を強めると男は小さく苦笑して言った。 「そう警戒せんでくださいよ、小蓮小姐(シャオレン シャオチエ)。俺は彭鍾馗。この辺の連中を仕切らせてもらってます。ニコライの旦那から横浜に来られるって聞いて案内させてもらおうと思って....」  俺はミハイルの言葉を思い出した。ー日本にも部下がいるーと言っていた。イリーシャが、モバイルでニコライとやり取りをしていた。 やがて目線で『大丈夫だ』と伝えてきた。俺はほっと息をつき、中国語で話しかけた。 『どこの組のもんだ?』 『楊ファミリーにいました。こっちに逃げたヤツを束ねてます』 『みんな殺られたんじゃないのか?』 『周が頭になった時、離れました。けどファミリーのみんなの仇は取りたかった...レヴァントの大将が崔を殺ったと聞いて......着くことに決めました』 『そうか.....』  俺は苦笑いした。そして、こいつが、高速で例の車のタイヤをバーストさせた男と同じツナギを着ていることに気づいた。 『あれはあんたか?』 『ネタを掴んでいたもんで.....』 『助かった。礼を言う』  彭は、本当に嬉しそうににっこり笑った。  俺は日本語に切り換えて、彭に言った。 「中華街に行きたいんだ。案内してくれるか?」 「喜んで」  俺達のやり取りを聞いていた遥が目を真ん丸にして俺を見上げた。 「ラウルは中国語も話せるのか?凄いな」 「俺のオヤジは中国人だ」 「でも、日本語もロシア語も英語もできるんだろ?」  俺は肩をすくめ、小さく溜め息をついた。 「根なし草だからな、俺は....」  俺に故郷はもう無い。あるとすれば、ミハイルが俺の故郷だ。そう思った。ヤツには絶対言わないが....。
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