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色の抜けた乾いた落ち葉をかき分け、冷えた土にシャベルをあてる。
柄に力をこめ、鈍色のシャベルを埋めては返す。たた黙々と繰り返した。
コツ、と先に小さな手応えがある。すり鉢状にへった土の中、赤い欠片が光っていた。指でほじくり出すとぽろりと掌に転がってくる。
摘んでじっと目を凝らす。陽を通して赤く光り、木々と大地の黒が沈むように透けている。
――見つけた。私たちの宝もの。
イミテーションだけれども、大人になったら本物をあげるからね、と祖母は私たちに約束してくれた。姉とふたり、眺めたり身につけたりしては互いの未来の姿を語りくすくす笑いあった。
シャベルを動かす手が自然と早くなる。
ルビー、エメラルド、アメジスト。シャベルの先が当たる度に鳴る澄んだ硬質な音。木陰の薄明かりの中、土と枯葉にまみれながら色を放つ透明なイミテーションたち。黒い土の中から蘇るたびに燃えるように輝きだす。
そして最後にでてきたものは、
「あった。リヤドロのおにんぎょう。これで姉さんの隠したもの全部。宝探しゲームに私勝ったよ。姉さん」
『今回はすっごい難しいよ。ぜったいに見つけらないからね』とか言っていたくせに。姉さん、道路の街路樹の下に隠した私の宝物にはたどりつけなかったじゃない。
「私も公園に、隠せば良かったね」
この車のこない、小さな山のある公園に。
土にまみれたお人形に頬にすり寄せる。端から溢れた涙がアーチを描いて滴り落ちた。少女像をなぞるように滑り落ちる。
姉と一緒に抱いて眠ったお人形。
もっと大きく思えたけれど、今では私の掌より少し大きいくらいのお人形。祖母が私たちに似ていると与えてくれたリヤドロのお人形。宝探しゲームの途中で事故に遭い、答えを教えてくれぬまま病院で深い眠りの闇に沈んだ姉の方のお人形。やっと見つけた。
『このおにんぎょうはあなたたちに似てるでしょう? 大切にしなさいね。そうしたらあなた達も美しく大きくなれるから』
祖母から与えられた優しい言葉は、時間を見つけては私にシャベルを持たせる呪いの言葉へと変わった。
大切にすれば姉は目を覚ますだろうか。
祖母の言葉は祝福に戻るだろうか。
「さあ、帰ろうね」
陽の当たるところに座っている私の方の隣にね。
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