夏の終わりの首切峠

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 両親とサブと一緒に車に乗り、目的地の風穴に向かった。国道から県道に入ると道は狭くなり片側一車線から、山道に入ると車二台がギリギリすれ違える幅へと変わった。舗装された道は落ち葉が覆う面積が増え、車は速度を落とし、緩い傾斜をゆっくりと登った。車の周囲を青々とした緑葉の木々や無遠慮に生えた竹が取り囲む。 「だいぶ山道ねぇ。みんなで出かけるのは、いつ以来かしら?」  母がぽつりとそう言って窓の外を見ている。    クーラーが効いているけれど、木漏れ日が車内に入り込み、陽射しに肌が少しだけジリついた。  後頭部席に一緒に座ったサブの頭に手を伸ばした。ほわほわとした毛の頭を撫でると、気持ち良さそうに目を細めた。 「いつ以来だろうね、覚えてないよね」  家族みんなで出かけるのは何年振りだろうか。小学生の頃は夏休みになれば父と市民プールや海水浴に出かけていた。キャンプにも行った気がする。地域の子供会で星座観測会にも参加し、花火大会にも一緒に行った。思えば、家族の思い出は夏休みの出来事が一番多い気がする。  高校生になったら、今日のように家族全員で出かける事は減ってしまうだろう。友達がいうほど私は父に対して疎ましい感情を持ってはいないが、かと言って、頻繁に家族全員で一緒に出かける程もう子供ではない。きっと学校の行事があれば、そちらを優先するだろう。 「もう少しで着く」 父はそう言って、山道の脇、道が膨らんでいる所に車を停めた。 「少し歩いて山を登ったら、風穴がある。行こう」 サブにリードを付けて、車から降りるとむせ返るような熱を含んだ土の匂いが鼻をくすぐった。観光スポットと聞いたが周囲は(さび)れており、崩れかけたバンガローが見えた。駐車場も周囲にはなく、車一台も停まっておらず、不気味な気配がしていた。
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