夏の終わりの首切峠

4/7
16人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 砂利と小枝、落ち葉が道を覆った狭い山道を5分程度登ると、急に開けた場所に出た。石垣のような不揃いの石を3メートル程積み重ねた洞窟に似た場所が見え、その先に風穴はあった。穴には木の屋根があり、奥に進めば進むほど気温が下がり、冷んやりとした。石垣の奥の穴は薄暗く、半地下を思わせる空間で、広さは6畳程だった。穴だが石で囲まれた自然の部屋といった印象だ。観測のためか、温度計が設置されていた。気温11度。出掛ける前、天気予報は今日の最高気温を32度だと告げていたので、大きな温度差がある。 「寒いぐらいだね」 「本当だね。寒いね」 「そうだな……」 暗い穴の中で、ひゅうううと冷たい風が抜ける。サブの毛が冷風に震えた。肌をさらった風は私の熱を奪い、鳥肌が立った。 「なんでここは寒いのかな?」 私が聞くと父は頭上の朽ちかけた木の屋根を見上げて、言った。 「冬の間に積み上げた石の隙間に雨水が入り込み、地下でその水が冬の時期に氷になって、夏に冷たい空気が吹き出す仕組みだな」 「ふーん」 話のネタに父は事前に調べていたのだろうか。無表情であるが、父は出かける事を楽しみにしていたのかもしれない。 「お父さん、もう寒いから出ようか」 「そうだな」 風穴から出ると、サブははふはふと鼻を鳴らして、私を見た。サブも寒かったのだろう。 「もう一つ、寄りたい場所があるんだ」  父は車に乗り込んで、ルームミラー越しに私を見た。    私が頷いたのを確認して、父は顔を伏せた。険しい表情だった。    家族で出掛けるのに何故そんなにも殺伐とした表情をするのだろうかと疑問だったが、父が痩せた為にそう見えるのだろう、と深くは追求しなかった。母は朝食を運んだ時と一変して態度が変わり、口を開かなかった。その事に違和感を感じつつも私は体にまとわりつくようなじめじめとした疑問を口にはしなかった。  サブは静かに私の横で、車の振動を受け止めていた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!