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じいやは立派な長屋門の前にバスを停めると、運転席を降りて、私達が座っている後部座の扉を開けた。
「さあさあ、どうぞどうぞ」
バスを降りて、目の前にあるお屋敷を見て改めて、その大きさに驚きを隠せない。
私の隣にいた誠くんと亜紀ちゃんも驚いていたが、誰よりケイコさんが驚いていて、口を開けたまま佇んでいる。
「ほら、行くぞ」
宗一さんが言うと、誠くんと亜紀ちゃんはご機嫌に門を潜っていく。
ケイコさんは何か言いたそうだったが、口を塞ぎ、門を潜った。
私は心なしかお屋敷の上を暗い雲が覆っているように感じて、入るのに躊躇している。
「どうなすったんです、お嬢さん?さあさあ、中へ」
じいやは五人分の荷物を持ちながら、私を促した。
広い玄関を後にして、襖が続く長い廊下を歩いている時に少しばかり気になったことがある。
空調が効いているようには感じられないが、肌寒い。
先程、バスを降りた時は恐ろしい程の暑さを感じたのに……
換気口が見えないだけで、もしかしたらエアコンがお屋敷全体にあるのかもしれない。ただ風は感じれられない。
「よく、おいでなすいましたね」
広い居間に通されると、着物姿のご婦人が私達を迎えた。
「ほう、そちらのお嬢さんが」
そのご婦人は誰よりも最初に私に目を向けた。
「母さん、綺麗な子だろう。朱美ちゃんだ」
宗一さんが私を紹介したその言葉に私だけでなく、ケイコさんや誠くんも驚いた。
「あなた?」
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