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誠くんに言われて、私は彼の手元にあった冊子に目を向けた。
数え年四十ヲ迎エル前ノ八ガツ十七ニチ、主ハソノコノ身体ヲオニガミサマにササゲヲ、オニガミサマノ嫁サマハ、キレイナジュンスイムクノ女子ヲササゲヲ。
これは単なる、言い伝えのような物なのだろうか?
「ここにある主ってさあ、もしかして父さんのことなのか?」
誠くんがポツリと言う。
「僕の父さん、今年40歳なんだ。父さんは鬼に体を捧げるってことなのかなあ、そして女の子とけっこん……」
誠くんの声が少し震えている。
だけど、私はもっと大きな恐怖を感じている。気のせいかもしれない、いやそもそもこんな事はあり得ない。鬼に若い女の子を捧げる。
夢物語だ。
けど、ケイコさんのあの電話の会話。夜中に感じる吐息。もしかしたら私は鬼へ捧げるためにここへ連れられてきたのではないか?
「ねえ、誠くん、ケイコさん何処にいるの?」
私がきくと、誠くんはかぶりを振った。
「実は朝早くに亜紀の腕を引っ張りながら出て行く所を見たんだ。散歩だろうと思っていたけど」
私はこの時ケイコさんに見捨てられたと思った。三人を連れて行く自信がなかったケイコさんはまだ小さい亜紀ちゃんを連れて逃げたのだ。
襖の間から玄関を覗くと、白装束に身を包まれた村人らしき人達がぞろぞろと敷居を跨いでいる。
始まるのだ。
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