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「誠くん、逃げよう。ケイコさん達も逃げたよ」
「えっ?逃げる?」
私は誠くんの手を握ると、裏門から出て、山道へ入った。
小高い場所まで来ると、屋敷を追う黒い雲の異様な光景がハッキリと見えた。
黒い雲の真ん中には穴のようなものがあり、私が丁度寝泊りしていた部屋へ何か、白い霊気のようなものを送り出しているようだ。
だけど、背筋が凍ったのはそれを見たからではない。
背後からあの吐息がした。
私の首筋に掛けられている吐息。
私が手を握っているその人物が、そこに立っている。
「やっと、僕らは結ばれるんだ」
誠くんの瞳は紅く滲んでいる。
私はあの記述を読み間違えたことを知った。いや、もしかしたら誠くんによって違う解釈をされたのかもしれない。
誠くんに抱き寄せられそうになった私は、手を振り切り走った。
「ど、こ、に、いくの?」
どんなに走っても、誠くん、いや鬼の声は耳元で聞こえた。
走っているうちに気がついた。景色が全く変わっていない。屋敷は直ぐ側だ。
「み、い、つ、け、た」
その眼球から紅の涙を流しながら誠くんは私の腕を掴む。
私はまた諦める事を選んで瞳を閉じた。
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