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阿比留郡中家町に私が訪れたのは10年前、13歳の時。
中学一年の夏休み、パン屋を営んでいた両親は私を何処にも連れて行けないという負い目からか、母の友人に頼み、私は母の友人家族と母の友人であるケイコさんの旦那さんの生まれ故郷へ行くことになった。
母とケイコさんは所謂幼馴染みで、姉妹のような関係だ。だから、母も何の心配もなく私をケイコさんに預けた。
ケイコさんには私と同じ歳の男の子、誠くんと私より四つ下の女の子亜紀ちゃん、二人の子供がいた。
旦那さんの宗一さんは証券会社勤めのサラリーマンだったと曖昧に覚えている。
飛行機で一時間半飛んだ後に、電車を何本か乗り継いだような気がする。
降りたのは、駅看板が倒れかけ、人一人も見掛けない無人駅。赤い電車が去っていく姿に何故か心細さを感じた。
「ウワー、何だよここ」
不快感を言葉に発したのは私ではなく、誠くん。
私はこの時に、誠くんや亜紀ちゃん、ケイコさんでさえも初めてこの地を訪れたことを知った。
旦那さんの実家に一度も訪れたことがない事に違和感を感じたのだが、誠くんが言うには夏休みも、お正月も何時もはケイコさん側の実家に行くとのこと。
それでも、その話、私には違和感しかない。誠くんと亜紀ちゃんは一度もお父さんのご両親に会ったことがないという。
改札口もない駅を出ると、商店や車はおろか目の前には一軒の家も見当たらない。聳え立つ山が何処までも続いている。
身体を突き刺すような暑さは感じられたが、何処か全体に暗くボヤけている。
何故、初めて家族で訪れる実家に私を連れて行くのを許可したのだろう。
宗一さんを見ながら思った。
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