35人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
1
――あれは、何時の頃の話だっただろうか
思い出した。小学校五年の夏休みに家族で京都に遊びに行った時の話だ。
僕と父と母の三人で宵山を見に行ったんだ。7月15日の夜に西本願寺の近くにあるホテルに泊まった。
何故、京都なのかと思われるかもしれないが、僕の姉が京都の大学に進学しているからだ。姉はこっちで独り暮らしをしているらしい。母によると、就職もこっちで考えているのかもしれない。
「……お姉ちゃんは遠くに行ってしまったのよ」
僕にそう言い聞かせた時の母の寂しそうな顔を覚えている。母も姉のことが大好きだったのだろう。勿論、父も僕も姉のことが大好きだ。姉はよく僕とも仲良く遊んでくれた。7歳くらい歳が離れていたのに嫌な顔一つしなかった。家族にとって我が家を照らす灯りのような存在だった。
7月16日の夜。夜といっても、まだ午後5時をちょっと過ぎたくらいだった。僕はホテルの部屋で退屈していた。僕の持っているキッズスマホに母からのメールが入っていた。
『ごめんね。道が混んでいて、ちょっとホテルに帰るのが遅くなるわね。帰ったら宵山に行きましょう』
僕と両親は午前中は四条で一緒に買い物をしていたのだが、その買い物に退屈していた僕は母からカードキーを貰って、先にホテルの部屋に戻っていた。自室でゲームをやりながら暇を潰していたが、それにも段々と飽きてきた。
(5時には戻ってくるって言ってたのに……。そうだ!)
僕は思い付いた。定期券もスマホもホテルの鍵も手元にある。お財布の中にも千円札が3枚と100円玉が6個あることは把握していた。
自分で歩いて宵山に行こう!
そう思い立った。今、居るホテルを出て十字路を真っ直ぐに直進すれば、地下鉄烏丸線の五条駅に着く。そこから四条までは一駅だ。あとは、そこで両親と合流するなり買い物するなり、自由に歩くことが出来る。
僕は小さな黒い手提げ鞄に定期、スマホ、鍵、財布を持って部屋を出た。
最初のコメントを投稿しよう!