姉と巡る夏の宵山

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4  不思議なことに、姉と手を繋ぎながら歩いていると人混みに足止めされることなく、スムーズに進むことができた。  屋台や提灯の灯りに、姉の黒い浴衣と長い黒髪がキラキラと反射し、とても美しく見えた。 「お姉ちゃん、ちょっと待って」  靴ひもが急に解けた。直そうとして、道の端っこに寄る。姉も黙って付いてきてくれた。  コンコンチキチン コンチキチン  宵山ならではのお囃子の音色が鳴り響いていた。「一方通行にご協力くださーい!」という交通案内の声も大通りに響いている。白いアーケードがオレンジ色の灯りで照らされ、仄かに明るく揺れている。京都の夏は暑いと言われるが、夜になっても蒸し暑さは収まることは無かった。汗がべったりとTシャツに張り付いている。 「人が多いね」  姉がボソリと呟いた。祭りで高揚している雰囲気の中、姉だけは只一人、落ち着いているように見えた。 「お姉ちゃんは京都が好き? 楽しんでる?」  ふと、そんなことを姉に聞いてしまった。姉の表情が憂いを帯びていて、何かに悩んでいるように見えたからだ。大学での新生活で不安に感じることがあるように見えたのだ。だが、姉の答えは僕が予想したものとは違っていた。 「そうね。楽しかったかもね。来られたら……だったけど」  この台詞の意味は後で分かるのだが、現時点での僕はこの台詞の意味が全く分からなかった。  僕が首を傾げていると、姉は僕の手を引いた。 「そろそろ行こうよ。あんたに買ってあげたい物があるの。それを買ったら、特別な宵山に連れて行ってあげる」  「買ってあげたい物」という台詞を聞いて、僕は目の前に見える高島屋かそこら辺の屋台で買い物をするのかと思った。だが、姉は僕の手を引っ張ると白いアーケード街ではなく、裏路地の方へと連れて行った。
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