そうだ、京都へ行こう!

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   ◇   ◇   ◇  夕食を終え、部屋へと入ったフレデリックは珍しくも寝台の上にころりと寝転んだ。普段であれば何を差し置いても辰巳の世話を焼くフレデリックである。 「珍しいな。疲れたかよ?」 「ううん。ただキミを誘ってるだけ」  フレデリックが自ら外したボタンの合間から覗く白い肌が艶めかしい。僅かに寝台を軋ませて、辰巳はフレデリックのすぐ隣へと躰を乗り上げる。すぐさま手を伸ばすフレデリックにシャツを脱がされながら、辰巳は小さく笑った。 「甘いもんなんか食ったか?」 「スイーツを食べた時じゃなきゃ、キミに欲情しちゃいけないのかい?」 「ンなこたねぇけどよ」  短い会話の間にも、辰巳の上半身は露わにされていた。節の高い指がつぃと肌の上を滑る。 「それとも、気分じゃない?」 「煽っておいて聞くんじゃねぇよ」 「キミの場合、その気がなかったらどれだけ煽っても意味がない事くらい知ってるよ」  そう言いながらも、フレデリックの手は止まらなかった。 「けど、辰巳はきっと僕に欲情する」  自信ありげに微笑むフレデリックを辰巳は引き寄せた。肩口に埋まる金色の頭をチラリと見遣る。 「そうだな」  気持ちのこもらないような返事をしながらも、辰巳はフレデリックを寝台の上に囲う。フレデリックを見下ろすその口角が、可笑しそうに歪んだ。 「たまには甘やかしてやっか」  なめらかな肌の上を黒髪が滑る。そこかしこに落とされる口づけは、いつも以上に甘い気がした。 「んっ、辰……巳…」 「嫌かよ?」 「嫌じゃ、ない……」  うっとりと微笑むフレデリックの唇に、辰巳のそれが重なる。求めるような口づけに、あっという間にフレデリックは夢中になった。 「っふ、……ぁ、辰巳、好き……っ」  掻き抱く腕の力強さに苦笑を漏らし、辰巳はフレデリックの耳元に囁いた。 「下も脱がせろよ」 「ん……」  ベルトへと指をかけるフレデリックをじっと見下ろしていれば、僅かに頬が朱に染まる。 「そんなに見つめられたら、恥ずかしいじゃないか」 「そういう顔も、悪くねぇな」  小さく喉を鳴らして笑う辰巳を碧い瞳が睨む。幾分か手荒に外されたベルトに微かな笑みを零し、辰巳はフレデリックを抱え上げた。 「ッ……辰巳」 「拗ねんなよ。甘やかしてやるって言ってんだろ?」  高い位置にあるフレデリックの顔を見上げながら、辰巳は大きな躰を引き寄せた。すぐ目の前にある逞しすぎる胸板に、自然と笑みが溢れる。 「お前は幾つンなっても変わんねぇな」 「え?」 「ちったぁ老けろよ」  あまりにもストレートな発言がフレデリックの笑いをそそる。 「普通は逆だと思うんだけどなぁ」 「普通じゃねぇんだろ」  しれっと言って退ける辰巳に再び笑みを溢し、フレデリックは些か困った顔をする。 「僕は、いつまでもキミに愛されていたいだけだよ」 「お前が老けても愛してやっから安心しろよ」 「僕は若々しいまま愛されたい」  お互い相反する意見に顔を見合わせたまま黙り込む。その顔は、どちらも穏やかな笑みを浮かべていた。 「ったく、化け物みてぇな嫁を持つと苦労すんな」  言いながら、辰巳はすぐ目の前にある腹筋を拳で叩いた。 「……甘やかしてくれるって言ったのに」 「ああ? そういや言ったな」 「なのにお腹を叩くなんて、酷い旦那様だと思わないかい?」  くすくすと声を上げて笑うフレデリックの指が、お返しだとばかりに辰巳の腹筋を撫であげる。 「それとも、僕がキミを甘やかしてあげてもいいんだよ?」 「悪ぃな。それこそ気分じゃねえ」 「甘やかされるより、甘やかしたい気分?」 「ああ」 「たくさんおねだりしても、許されるのかな?」 「ねだる前にさっさと脱げよ」  ゆるりと金色の頭を撫でる手が、優しかった。 「……どういう風の吹き回しだい? もしかして、何か僕に隠し事でもしてる?」 「してねぇよ」 「本当に?」  返事の代わりに、髪を撫でていた手が額を弾く。だが、それさえも今日は優しい気がしたフレデリックである。  躊躇いもなく服を脱ぎ捨て、フレデリックは再び辰巳の上に戻った。 「んもぅ、本当に今日はどうしたんだい?」 「お前が誘ったんだろ」  訝しむように言いながらも、フレデリックの顔はこの上なくは嬉しそうだ。 「だって、こんなに優しくされたら、なんだか気恥ずかしいじゃないか」 「こうでもしねぇと、お前のそんな面ぁ見れねぇからな」 「……意地悪」 「優しいだの意地が悪ぃだの、好き勝手言ってんじゃねぇよ」  いい加減黙れと、そう言う辰巳に引き寄せられるまま、フレデリックは口付けを受け入れた。 「んっ……ぁっ、辰、巳……ッ、…っぅ」  ただ口付けを交わしているだけで、フレデリックの息は上がった。いつもより激しいわけでもないそれが、酷く気持ち良い。  やがて離れた唇は、フレデリックの胸の突起を咥え込んだ。軽く食まれたそこからじわりと熱が広がる。さざ波のような(やわ)かな快感が全身に回るまで、そう時間はかからなかった。 「ッん、……良い…っ」  フレデリックの長い腕が辰巳の背を掻き抱く。唐突に押し付けられた胸板に、辰巳は僅かに眉根を寄せた。 「おい、あんまり押し付けんな」 「だ、って……、もぅ、我慢できない…」 「胸弄っただけでか?」 「キミが、優しくするから……」  いつになく弱々しい声に、辰巳は口に含んだ突起を前触れなく噛んだ。膝の上の躰が強張る。 「ッ――……ぁ、っは…」  じわりと腹を濡らす熱に、辰巳の口角が上がる。微かに震える背中を撫でれば、フレデリックの躰から徐々に力が抜けていった。 「……意地が悪い…ね」 「良いじゃねぇか。気持ち良いのは好きだろ?」 「僕だけじゃ寂しいじゃないか」 「なら、早くお前ン中に挿れさせろよ」  大きな躰を辰巳の腕が軽々と持ち上げる。双丘の奥にあてがわれた硬い雄芯に、フレデリックは自ら腰を落とした。 「んあッ、は……っ、熱くて……気持ち良い…」  下肢を咥えこんだまま、動く気配のないフレデリックを辰巳は寝台の上に押し倒した。奥を穿たれた媚肉がフレデリックの意思とは関係なく収縮する。 「あっ、ん、辰巳……ッ」 「良い顔だ」 「ぁっ……ゃ」  嫌々と首を振るフレデリックの肌が熱い。含羞の色を浮かべ、視線を彷徨わせるフレデリックが纏う色香にあてられる。 「エロい顔すんじゃねぇよ」 「っ欲情、してくれた?」 「埋まってるモンでわかんだろ…ッ」  ぐぃと押し上げられる躰に、フレデリックの腕が大きな枕を掴む。 「アッ、待っ……て、辰巳ッ」 「煽っといて待ってもクソもあるかよッ」 「んぅッ、ぁ、奥……良い……ッ」  曝け出された喉元へと、辰巳は齧り付いた。皮膚を食い破りそうになるのを寸でのところで堪える。  ――色気あり過ぎんだろ……。  辰巳なりに優しく抱いてやろうと思っても、当のフレデリックが煽ってくるのだから質が悪い。  歯形の残る皮膚を舐めあげ、息を吐く。フレデリックに傷をつけようものなら、後が面倒な事になるのは明白だ。  ゆるりと引いた雄芯を離すまいと、蠢めく裡の媚肉が絡みつく。 「抜かない、で……」 「ああ? 抜かねぇよ」 「奥まで、満たしてくれなきゃ……嫌だ」 「ッたく、ほんとお前は質が悪ぃな……!」  いい加減黙れと、無骨な手がフレデリックの口許を塞ぐ。ゆっくりと腰を押し進めれば、随分と熱い吐息が掌を濡らした。 「んぅ……っん、ぅ」  快楽に潤んだ碧い瞳が辰巳を見上げていた。 「口塞がれんのが泣くほど良いのかよ?」 「ん、ぅんッ……っ、ぅ」  サラサラと揺れる金色の髪とは対照的に、下芯を食んだ後孔が収縮する。思わず笑みをこぼして、辰巳はフレデリックの額へと口付けた。 「可愛い奴」 「ッ、――……待ッ、ぁっ、あッ、ャ……ッ」  両手で顔を覆いながら、フレデリックは躰ごと横を向いてしまう。危うく顔面を蹴られそうになって、辰巳は反射的にフレデリックの脚を片腕で捉えた。 「っぶねぇなお前」  掴みあげた脚を引き寄せれば密着した肌の間に卑猥な水音が響く。 「だ、め……、ダメっ、辰巳ッ、止まって……っ!」 「ああ?」  いつになく余裕のないフレデリックの声に、辰巳は動きを止めた。 「どうしたお前」  未だ腕の中で肩を震わせるフレデリックを見下ろして、辰巳はポリポリと頭を掻いた。何か、フレデリックのトラウマにでも触れたのだろうかと珍しくも思案する。 「取り敢えず抜くが、大丈夫そうか?」 「ぃ、ゃ……動か、ない……で」 「動くなったってお前な……」  フレデリックの脚を抱えたままの自身の姿に苦笑が漏れる。情事の最中に気にした事などないが、こうして我に返ってみれば何とも間の抜けた体勢ではなかろうか。 「なぁフレッド、本当にどうした」  フレデリックを揺すらないように、そろりと伸ばされた無骨な手が金色の髪を撫でる。 「キミが……」 「あん?」 「優しくするから……」  意味が、分からなかった。優しくしたからどうだというのだと、言いかけて辰巳は言葉を呑み込んだ。  ――なんつぅ顔しやがんだ。  生娘(きむすめ)かと、思わず突っ込みを入れたくなるほど恥じらいを浮べるフレデリックを辰巳はマジマジと見つめた。 「優しくされんのが嫌なのかよ?」 「……嫌じゃ、ない」  言いながら、腕で顔を隠してしまうフレデリックを見下ろして辰巳は苦笑を漏らした。そういえばと、古い記憶が甦える。以前にもフレデリックが似たような反応を見せたことがあったのではなかったか。  腕の下に隠れた朱に染まった肌を無骨な指先が擽ぐる。 「嫌じゃねぇなら(つら)見せろ」 「……嫌だ」 「あぁん? 無理矢理引っぺがされてぇのか?」  顔を隠した腕に手を掛ければ、すかさず横合いから叩き落とされる。弱々しい態度とは対照的な素早い動きに思わず笑いを誘われて、辰巳はくつくつと喉を鳴らした。 「顔を見せろよフレッド」 「嫌だ……」  譲る気配もないフレデリックに、辰巳はゆるりと腰を揺すり上げる。 「ふぁっ!? あっ、あぁッ…んッ、辰巳ッ」 「お前、状況わかってんのか?」 「ァッ、嫌……っ、卑怯…者っ」  腕へと掛けられた辰巳の手を退けようとしたフレデリックは、だが体内に埋まったままの凶器に自ら墓穴を掘ることとなった。 「アッ、アァ…ッ、嫌……っ」 「ばぁか、突っ込まれたまま動いたらそうなって当然だろぅが」  悠々とフレデリックの脚を引き寄せた辰巳の口角が弧を描く。 「それとも、俺を煽ってんのか?」 「違……動かないでぇっ、お願…ッ、辰巳っ」 「それもなかなかそそられるがな……、懇願ってのは、目を見てするもんだ。なぁフレッド」 「いっ、ゃぁ……見ない、で…」 「手前の嫁の顔見ようとして何が悪ぃんだよ」 「っ……今は、だめ…」 「亭主に指図するような嫁を持った覚えはねぇな」  そう言い放ち、辰巳はフレデリックの腕をあっさりと退けた。そっぽを向いたままのフレデリックの頬へと口付けを落とす。 「いい加減諦めろよフレッド。何をそんなに嫌がってんのか知らねぇが、全部見せろって言っただろ」  少しだけ我慢しろと、そう言って辰巳は狭い肉筒から雄芯を引き抜いた。水音に、悲鳴にも似た嬌声が重なる。 「嫌ッ、あぁンぐ、……んっ、ぅ、…っふ」  フレデリックの声は辰巳の唇に飲み込まれた。背中へそっと回された腕に、辰巳の目元がふわりと緩む。 「落ち着いたかよ?」 「……もっと…」  強請るフレデリックに応えるように、辰巳は再び唇を重ねた。
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