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「おじさん、お久しぶりです」
おじさんの優しさは相変わらずで、私の突然の訪問に諸手を挙げて歓迎してくれた。しかし私は挨拶もそこそこに、荷物だけ置かせてもらうと、そそくさと目的地へ足を運んだ。
約束から何十年、後ろめたさはあるものの、私は確認せずにはいられなかった。
たけしとの電話を切ると、私は古い日記を取り出した。あの頃、田舎暮らしは目新しいことの連続で、宿題の日記はとても捗った。やはり思い入れがあったのだろう。捨てずに大事に保管しておいたのだ。
その日記を見返しても、やはり毎日けんたのことが書いてある。そして最後のページ、お祭りの日を読むにつけて、やはり訪れるべきはこの場所だと確信した。
洞穴は小さかった。子供だから大きく見えただけで、今私は、懐中電灯片手に腰を屈めながら進んでいる。また、私の恐怖心が奥行きも錯覚させていただけのようだ。すぐさま突き当たりにたどり着くと、横に斜面がある。今の私にはなんてことないが、たしかに子供にとったら少し危険であろう。それからほどなくして洞穴は行き止まりになった。私は少々がっかりしたものの、隈なく周囲を懐中電灯で照らしてみた。
すると私はある一点で光を止めた。傍らに小さな地蔵が立っている。やっぱり、と私は嬉しくなった。それから私はしゃがんで手を合わすと、
「遅くなってごめんね」
と呟いた。
洞穴にひんやりとした風がそよぎ、私の背中を撫でた。洞穴を出ると再び風がそよぎ、葉が揺らぎ、私に話しかけているようだった。
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