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それから僕らは狂ったようにその夏を遊び尽くした。どこへ行くにも四人一緒で、やはりガキ大将なだけあってたけしは色んな場所を知っていた。
虫捕りに探検、魚釣り、彼らの秘密基地も教えてくれた。
僕らは夜中もたまに抜け出した。蛍を捕りにこっそり出かけた時など、保護者にバレて怒られた。それも無理はない。なんせ僕とたけしは溺れて死にそうになったのだから、親たちは子供の安全に目を光らせていた。
しかしたけしは懲りるどころか、苦手を克服しようと僕に泳ぎ方を教えてくれと頼んできた。さすがに運動神経がいいだけあって、彼はすぐにマスターした。それからは川でしょっちゅう遊ぶようになった。
そして夏休みも終わりに近づいたある日、彼らは僕を地元の祭りに誘ってくれた。
祭囃子が鳴り響く中、僕らは屋台を見て回った。僕は友達と行くお祭りは初めてだったので、常にドキドキしっぱなしだった。
しかし一通り回り終えると、そのうちたけしが射的に、つとむが金魚すくいと、各々好きなものに興じ始めてしまった。僕とけんたは所在なく二人でただ佇んでいた。というのも僕は初めのうちこそお祭りが楽しかったが、ずっと気がかりだったことが頭をもたげ始めると、純粋に楽しめなくなっていた。それはもう少しで僕は本当の家に帰らなければならないことである。
そんな僕の心中を察してか、けんたは少し休もうと屋台から外れて静かな場所へと連れて行った。
「そういえば、あの時けんたが救ってくれたんでしょ?」
僕は急に思い出したようにあの時のことを切り出した。僕らはもう、気兼ねなく話せる間柄になっていた。
「まだお礼を言ってなかったよね。ありがとう」
あの日、子供が溺れたと大騒ぎになり、僕はお礼を言う機会を逸していた。今思い出したのは、やはりもうすぐ会えなくなる切なさからだろう。
「まさか、僕の力じゃ二人を引っ張り上げられないよ」
けんたは異なことを言う。あの時けんた以外に誰が助けられたというのか。
「ねえ、ふうまくん。来年も来てくれるかい?」
けんたは急にしんみりと、ポツンと呟くように尋ねてきた。彼のつぶらな瞳を見て、僕はようやく彼が僕と同じ気持ちなのだと思い知った。それを確認すると、僕は即座にもちろんと返答した。
「じゃあ、今度来た時は洞穴探検しようよ。それまでにもっと勇気をつけておいてね」
彼は一変して元気づいたようだった。
僕はおじさんの警告を盾に、洞穴を探検することを渋り続けていたが、内心怖いだけであった。たけしとつるんで大胆になってきたものの、お化けの類の怖さはまだ克服できていない。
しかし相変わらずけんたに心を見透かされていることの悔しさと、もうすぐ帰らなければならない現実が相まって、僕は明日行こうと大見得を切ってしまった。けんたは、
「じゃあ約束ね」
と無邪気な笑顔で僕と指切りをした。突然、花火が上がった。僕たちが清々しい気持ちで眺めていると、たけしとつとむがやって来た。僕たちは四人で輝く夜空を見つめていた。
翌日、予定より早く父は迎えに来て、僕は田舎を後にした。
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