あの夏

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 それ以来、私は結局田舎を訪れることはなかった。いや、一度だけ法事でおじさんのところへ行くことがあった。しかしもういい歳だったので、例の洞穴などへは行かず、たけしの家にだけ顔を出してみた。けれどたけしも既に上京して田舎にいないという。せっかくなので、親御さんに連絡先を教えてもらうだけに留まった。  それからいざ連絡しようとすると、どこか気恥ずかしくなり、結局有耶無耶なまま何年も過ぎ去ってしまっていた。  私は現在、仕事で干されている身分である。かつての私だったらそんなことはなかったであろうに、上司に遠慮なく意見できるタイプへと変化していた。あの田舎でのひと夏が、私の在り方に大きな影響を与えたのは間違いない。理不尽なことへ立ち向かう勇気が、たけしやけんたに接するうちに芽生えたのだ。そんなやつなので当然上司とはしょっちゅうぶつかり、煙たがられている。結果干されてはいるものの、後悔はしていない。  私は今休息期間なのだ。川のさざ波を見つめながら、社会の闘争から離れ、ゆったりとした時の流れに身を任せて、あの夏に思いを馳せていた。
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